2003年の著書で一世を風靡した「オープンイノベーション」の提唱から17年。米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院のヘンリー・チェスブロウ教授が、これまでの事例から得られた、正しい知的協働の神髄について語る。
ヘンリー・チェスブロウ[Henry Chesbrough]
米カリフォルニア大学バークレー校教授(特任)
米スタンフォード大学経営学修士(MBA、最優等)、米カリフォルニア大学バークレー校で経営と公共政策の博士号(Ph.D.)取得。2003年、社内外の知的な協働でイノベーションを起こす必要性を説く「オープンイノベーション」の概念を発表。米ハーバード経営大学院助教授などを経て現職。

 2003年に、社内外の知的協働によるイノベーションの重要性を説いた「オープンイノベーション」を提唱し、世界中に影響を与えたヘンリー・チェスブロウ米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院教授。以後17年、自身も数多くの試行錯誤を重ね、望ましいイノベーションの在り方を模索し続ける教授に、オープンイノベーションがつまずく理由とその克服法について聞く。

 「シリコンバレーでは常に新技術が現れ、テクノロジーの世界はどんどん進化している。しかし、新技術の恩恵を受けるはずの企業や国の生産性の成長は全く芳しくない。主要7カ国(G7)のデータを見ても、どこも似たようなもので、すべての国で生産性の向上は伸び悩み、成長率は1950年~60年代から衰退の一途にある。高速通信技術の進歩は加速し、G7すべてにほぼ同時に行き渡っているにもかかわらず、だ。日本も例外ではない。60年代の日本の生産性の伸びは驚異的だったが、今は米、英、フランスとほぼ変わらない」

 シリコンバレーを挙げるまでもなく、一部の先進都市ではスタートアップによるイノベーションが次々と起こり、効率も劇的に高まっているように見える。しかしそれはあくまで局地的現象というわけだ。

<span class="fontBold">オープンイノベーションにはコツがある</span>(写真=PIXTA)
オープンイノベーションにはコツがある(写真=PIXTA)

ナンバー1とそれ以外に格差

 「この現象について経済学者は、『成長が正確に測れていないだけ』『よりよい物差しができれば、技術の進化の恩恵も測れる』と言う。だが計測の巧拙の問題ではないと思う。詳細に見ると、全企業の生産性が伸びていないわけではなく、ナンバー1企業は新技術を活用して更なる躍進を果たしている。それ以外との差が顕著なのだ。ナンバー1企業が指数関数的に成長する一方、それ以外はどんどん後れを取っている。

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