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既存事業と新規事業を同一組織で一体感を持って展開する「両利きの経営」。未曽有の危機の中、企業が生き残る一つの方法と注目されている。

チャールズ・オライリー[Charles A.O’Reilly]
米スタンフォード大学経営大学院教授
米カリフォルニア大学バークレー校でMBA(情報システム専門)、組織行動論で博士号(Ph.D.)取得。米ハーバード経営大学院などを経て現職。コンサルティング会社、Change Logic社共同創業者。(写真=村田 和聡)

 新型コロナウイルスという未曽有の危機の中で、あっという間に風景が変わってしまった日本経済。デジタル化やダイバーシティなど変革が叫ばれながらもほとんど変われなかった日本企業だが、ウイルスという“外圧”によっていや応なしに対応していくことを迫られている。米スタンフォード大学のチャールズ・A.オライリー教授によれば、変化の激しい時代の経営に必要とされるのが、教授らが1996年に提唱した「両利きの経営」だ。

 今回からはオライリー教授に、日本の企業経営が「両利き」をやり遂げるためのヒントを聞いていく。まずは、両利きの経営とは何か。

 「企業が戦略を立案すると、経営者は、その戦略を実行するためにどのような仕組みを設計すべきか、と発想する。そして多くの経営者は、既存事業の拡充をする組織と、新規事業を立ち上げる組織は別であることが望ましいと考えている。

 先だって亡くなった経営学者クレイトン・クリステンセン氏は戦略論が専門で、大企業の破壊的創造が直面しがちな『イノベーションのジレンマ』に関する理論を生み出したことで知られる。そのクリステンセン氏も、1つの組織、とりわけ大企業が既存事業と新規事業の両方を同時にやるのは難しいことだと認識し、別々に取り組むことを実際に推奨していた。

 クリステンセン氏がイノベーションのジレンマを主張した頃、米ウォルマートはまさに、既存事業と新規事業で組織をどう切り分けるかを決めるタイミングだった。議論の結果、同社は、通信販売用のオンラインショップ、ウォルマート・ドット・コムを立ち上げ、米アーカンソー州の本体と完全に切り離して西海岸のシリコンバレーに拠点を置くことを決定した。

ウォルマートが失敗した理由

 ところが、期待に反し、そのやり方はうまくいかなかった。ウォルマート・ドット・コムは通販のシステムを開発するだけでなく、店舗に在庫があるか、どのぐらいで届けてもらえるかなどを把握する必要があった。本体と別の組織ではその情報を十分に得ることが難しかったのである」

 クレイトン・クリステンセン教授が「イノベーションのジレンマ」で、大企業が新興企業に負ける理由を説明したのが1997年のこと。当時、新規事業は既存事業を破壊する存在として受け止められていたことも、「既存事業と新規事業は別組織でやるべき」という考え方の根拠となっていた。しかしウォルマートなどの例を契機に、こうしたやり方を検証する動きが出る。