様々なアルゴリズムで進化し、意思決定を代替していくAI(人工知能)。AIに「意思決定権」の一部が権限委譲されていく時代、人間が伸ばすべきスキルとは何か。

マイケル・オズボーン[Michael Osborne]
英オックスフォード大学機械学習教授
2010年、英オックスフォード大学で機械学習の博士号を取得(Ph.D.)。同大学でポスドク、リサーチフェローなどを経て12年准教授、19年から現職。日本のAI(人工知能)ベンチャー、エクサウィザーズの顧問も務める。

 AIが進化し続けている一方で、近い将来、それが社会にもたらすインパクトやそれに伴い出現する課題も浮き彫りになってきた。AIに「意思決定権」の一部が権限委譲されていく時代、人間が伸ばすべきスキルとは何か。シリーズ最終回は、AIで可能になったことやその仕組みの概略を解説しながら、新しい世界で人間が活躍するための条件を、機械学習の専門家であるマイケル・オズボーン英オックスフォード大学教授と展望する。

「AI」は概念の総称

 「まず言いたいのは、AI(人工知能)に関する議論が大げさに語られているということだ。様々な分かりづらい専門用語が織り交ぜられることによって、議論がますます難解なものになっている。だが、AIもまた『既知の概念の総称』にすぎない」

 やがて訪れるAI社会を正確に展望するには、専門用語を平易な言葉で理解することが不可欠。代表的な難解キーワードが機械学習である。機械学習とは、AIがデータを取り入れながら自ら進化していく手法だ。

 「機械学習は、AI研究の中でもほかの分野より一段と重きを置かれている領域でもある。一口に機械学習といっても、『統計手法をベースにした機械学習』、私の専門分野である『ベイズ機械学習』、そしてさらに別の発想が取り入れられた『深層学習』がある」

 「統計的手法をベースにした機械学習」では文字通り、人間がプログラミングによって構築したアルゴリズム、すなわちあらかじめ決められた計算や情報処理などの手順を使うなどで、コンピューターが特徴を学習していく。

 オズボーン教授の専門でもある「ベイズ機械学習」も、統計的手法を基礎にした学習方法だが、ベイズと名付けた特別な手法を活用するため、こう呼ばれる。

 一方で、統計的な考え方から離れた機械学習が「深層学習」だ。近年、この深層学習が登場したことで、それまでの方法を「古くなった」と論評する研究者や実務家も出てきており、オズボーン教授も、機械学習の中身が違うフェーズに移ったと考えている。

 「ベイズ機械学習では、同じ統計的手法でも人間が知性を宿していくメカニズムに近い手法の下、AIが知識を吸収していく。人が自分の知識が不完全であることをきっかけにより必要な情報を得ようとするように、AIは自らの知識の隙間を埋めようと自発的に知性を獲得し続けようとする。べイズ機械学習の歴史は古く、19世紀初頭、フランスの天才数学者ラプラスが示した知見を源流とする。

 ベイズ機械学習には、このラプラスのアイデアを中心に数多くの概念が組み込まれているが、特徴的なのはAIに『不確実性が常に存在する』という前提の学習方法を採用していることだ。AIの動作環境の複雑さから考えて、完全な知識を備えることなどできない。そう考えれば本来であれば、不確実性が必ずあるということを意思決定の過程に必ず組み込まなければならないのだ。

 そして深層学習。いわゆる深層学習の確立こそが、ここ数年のAI研究の飛躍的な発展の原動力になったといえる。AIの深層学習のアルゴリズムは、統計的手法をいったん離れ、人の脳の働きをヒントにしてつくられた。脳でいう神経細胞の部分が、AIの計算ユニットだ。

 なお、AI全体の歴史でいえば、金字塔ともいえる『アルゴリズムによる画像認識』ができるようになったのも機械学習の成果だ。画像認識技術を支えるコンピュータービジョンは、機械学習によって動いている」

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