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ESG(環境・社会・統治)をはじめ、社会課題に意識を向けた経営が企業に求められている。その背景や考え方、最新事情を、仏INSEADのジャズジット・シン教授に聞く。

ジャズジット・シン[Jasjit Singh]
仏INSEAD戦略教授
インド工科大学デリー校と米ジョージア工科大学でダブル修士号を取得、米ハーバード大学で経済学修士、同経営大学院でビジネス経済学の博士号を取得(Ph.D.)。戦略、イノベーション、持続可能な開発、社会インパクト投資が専門。2004年から現職。

 米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が2011年に提唱したCSV(共有価値の創造)は、社会を改善する価値の創造を企業戦略に組み込み、収益を高めるというコンセプトだ。仏INSEADのジャズジット・シン教授は、「CSVの登場は、社会課題解決を目指すビジネスにおいて転換点になった」と話す。今回は、投資・ビジネスによる「社会課題解決」に向けた意識の変化などについて聞く。

CSVの登場で関心が高まる

 「CSV(共有価値の創造)とは、マイケル・ポーター教授が生み出したコンセプトである。社会課題解決ビジネスに関わる多くの人は、『ポーター教授のCSVが登場したおかげで(企業による社会課題の解決に対して)世間の関心が高まってとても良かった』と言っている。

 しかし、企業と社会課題の解決をリンクさせることを最初に提唱したのがポーター教授かというとそうではない。以前から同じことは提唱されてきたが、ポーター教授がCSVという新しい言葉を生み出すことにより、世に広めた。ポーター教授の企業経営トップ層における影響力が大きいからだ。

米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した「CSV」が金字塔に(写真=栗原 克己)

 CSVの登場は、この分野における転換点になった。つまり出発点ではなく、CSVをきっかけに(企業の社会貢献的な活動スタイルについて)より関心を集めるようになったということだ。CSVの登場以来、単なるCSR(企業の社会的責任)活動だけでは不十分である、と人々が言い始めた。ESGや持続可能性について、そしてCSVについて、事業と別ではなくビジネスの一部として考えなければならなくなった」

 ポーター教授はもともと、ポジショニングに基づく競争戦略の5つの要因分析を提唱するなどでマーケティングの基本戦略をフレームワーク化し、ビジネス界に大きな影響を与えた研究者だ。CSVではさらに、社会課題解決ビジネスにおける戦略的な考え方を提示した。社会課題解決ビジネスのフレームワーク化に成功した、という言い方もできるかもしれない。