社会課題の解決を目的とするビジネスに注目が集まる。最近は、社会課題の解決を本業とするビジネスを投資対象に組み込む動きも見られる。最前線の議論を追う。

ジャズジット・シン[Jasjit Singh]
仏INSEAD戦略教授
インド工科大学デリー校と米ジョージア工科大学でダブル修士号を取得、米ハーバード大学で経済学修士、同経営大学院でビジネス経済学の博士号を取得(Ph.D.)。戦略、イノベーション、持続可能な開発、社会インパクト投資が専門。2004年から現職。

 国連のSDGs(持続可能な開発目標)の浸透などを通じ、社会課題の解決を目指すビジネスが本格的に脚光を浴びつつある。これまでもマイクロファイナンスをはじめ社会的企業(例えば清潔な水を貧困地域に安価に提供する事業など)、CSR(企業の社会的責任)、CSV(共有価値の創造)、ESG(環境・社会・ガバナンス)と様々なコンセプトが登場してきた。最近注目されているのが「社会インパクト投資」である。社会課題解決ビジネスに詳しいフランスのビジネススクール、INSEAD(アジアキャンパス)のジャズジット・シン教授に話を聞いていく。

 「ESGは、環境、社会、そしてガバナンスを意味する。会社が社会にどう影響を与えているかを見極めるうえで重要な3つの側面だ。伝統的な経済取引では、お金を稼げている限り顧客の役に立っているから、既に社会に対して価値を創出できていると考えてきた。だが世界は、企業の財務データの数字を測るだけでは不十分だと考えるようになっている。

儲け主義の会社は評価されぬ

<span class="fontBold">慈善か投資を通したサポートか、それとも……</span>(写真=PIXTA)
慈善か投資を通したサポートか、それとも……(写真=PIXTA)

 ESGのEは環境で、環境に対してどう影響を与えているかだ。ESGの概念では『E』としてほかと切り分ける。2番目のSは、社会のステークホルダーに与える影響に対して、どのような実績を出しているのかだ。『S』は従業員であり、取引先であり、コミュニティーでもある。そして『G』はガバナンス、つまり企業経営そのものだ。適切に会社を経営することである」

 つまり、企業が数字だけでなく「E」「S」「G」という3つの分野でどう成功を収めているかが重要なのである。例えば、企業に関係の深いGはこうだ。

 「Gとは例えば、適切な経営プロセスが取られているかどうか、(意思決定の)透明性、取締役会の多様性、報酬は適切か、株主の権利を守り、会社が(社内の権力を持つ者に)だまされることのないような(外部の)株主が存在しているか──などである。この定義から考えれば、ガバナンスが重要になりつつある昨今のトレンドから読み取れるのは、市場メカニズムに依存するだけでは企業経営にはいつでもおかしなことが起こり得ると、世間が気づき始めたということだ。

 資本主義のもと、我々は市場で商品を売買でき、仕事を得て富を生み出し、自分や家族の生活水準を向上させることができる。その意味で、企業の目標の一つは市場で高く評価されることだ。高く評価されればされるほど、手に入れる富や社員の生活水準は上がっていく。だが、市場で高く評価される振る舞いが必ずしも社会にプラスの影響を与えるとは限らない。現在は、その影響に対する企業の認識や対応が恐らくまだ不十分で、しっかり考えられていない状況だ」

 Gが適正でない企業は、往々にして、EやSでも投資家を納得させられない。

 「気候変動が激しくなり、昨今、最も関心が高まっているのが最初のE、環境対応だ。過去20年のデータでも、気候変動の現象がより多く見られるようになった。地球温暖化や資源破壊などが見られていることに、人々の関心が高まっている。そんな中、いくら収益を上げていても、環境に負荷を与える企業活動をしていては、投資家の賛同は得られない」

 Sに注目すると、さらにハードルが高くなる。

 「今、問題になりつつあるのは、一般的には世界で貧困が緩和されているとしても、格差が必ずしも緩和されていない点だ。富める者は、貧困から裕福になるよりはるかに速いスピードでさらに豊かになる。言い換えれば、貧困層の生活が徐々に改善していても、その改善スピードより速いスピードで、富裕層にさらに多くのお金が流れ込んでいる。世界経済が市場メカニズムと資本主義に頼りすぎた結果だが、企業が格差を是正する活動をしてほしいと、政府や市民が期待している。企業は、これまでになくESGを重視する方向で活動する必要がある」

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