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中国・ハイアールには、変化対応力を高める仕組みがあるという米カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・ティース教授。今回は、さらにその詳細を掘り下げていく。

デビッド・ティース[David J. Teece]
米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院教授
1975年米ペンシルベニア大学で経済学博士号取得(Ph.D.)。米スタンフォード大学、英オックスフォード大学を経て82年から現職。200本以上の論文を発表、産業組織論、技術変革研究の世界的権威。

 企業が急速な環境の変化に対応するために、社内外にある技能を組み合わせ、構築し、再配置する能力を指す「ダイナミック・ケーパビリティ」。変化に応じて組織イノベーションを起こす力とも言えそうだが、本連載では、その概念と理論を最初に提唱したデビッド・ティース米カリフォルニア大学バークレー校教授の洞察を聞いていく。

 ダイナミック・ケーパビリティ論は、学術的にも実務的にも、今後さらに重要になると注目されている。

 この考え方を実践して組織そのものにイノベーションを起こすことに成功したのが中国のハイアールだという。ハイアールの人単合一モデルの英訳は「Integrating order with personnel(個人単位の市場目標を統合すること)」。つまり社内に無数の起業家がいて、会社はそれぞれの「人」(社員)の「単」(注文、競争市場の目標を意味する)を結びつけるネットワーク型の組織という考え方だ。同社が徹底した成果主義を実践できるのも、この構造があるからに他ならない。似た組織構造を持つ企業はほかにあるのだろうか。

 「米シリコンバレーのIT(情報技術)企業は『分権化モデル』寄りの構造だ。ハイアールの『人単合一モデル』は、いわば分権化が極端に進んだ組織だ。つまり、ハイアールはシリコンバレーの企業以上に、組織の上下関係が緩く、フラットになっている。(同社の定義した)経営理念でもある『人単合一』の考え方自体は以前から存在したが、同社のような8~9万人規模の従業員を抱える大企業で、うまくいくとは考えづらいビジネスモデルであり、ハイアールは組織が機能する仕組みを独自に開発したのだと思う」

俊敏さとのトレードオフとは

 前回紹介したように、俊敏に変化に対応するダイナミック・ケーパビリティが高い組織は「自己組織化」と「分権化」が自然に進む。権限が委譲された個々が、自然に最適化に向かって進化していく。

 ではダイナミック・ケーパビリティが高い企業が最強かと言えば、そう単純ではない。