イノベーション力が低いわけではなかった日本企業が米アップルなど海外企業に後れを取った真因はどこにあるのか。米マサチューセッツ工科大学のマイケル・クスマノ教授が、引き続き解説する。

マイケル・クスマノ[Michael Cusumano]
米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院
「スローン・マネジメント・レビュー」主幹教授

米ハーバード大学で博士号取得(Ph.D.)。ビジネス戦略と情報技術の研究で知られている。2016年から17年まで、東京理科大学特任副学長を務めた。

 前回、マイケル・クスマノ米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授は「近年の日本では業界再編を引き起こすほどの画期的なイノベーションが起こりづらくなっている」と指摘した。

 ただ一方で、クスマノ教授は、1980~90年代には、日本にも画期的なイノベーションを起こす底力があったともいう。では当時の底力はどこに消えたのか。クスマノ教授の話を聞こう。

起きなかった「異分野の協働」

 「本当に画期的で、既成概念を覆すようなイノベーションによる新製品や新サービスのほとんどは、米国の情報技術分野の企業が起こしてきた。そうしたイノベーションの源泉となったのが、大学での研究成果だった。例えば、数学の基礎研究がコンピューターサイエンスにつながったし、コンピューターのプログラミング技術を開発したのは大学の数学者だ。

 さらに、半導体製品のような機器を開発している人と、コンピューターサイエンスの研究者をつないだことも、のちのイノベーションに発展した。

 米国政府はこうした大学発の技術を取りまとめ、結果的に企業の研究室につなげる役割を果たした。当初は防衛利用目的だった技術が、のちに幅広く商業利用できるようになったのも、こうした政府主導による『異分野の協働』があったからだろう。

 日本企業も個々には様々な新技術の開発に取り組んではいたが、政府と企業、大学が一体となって協働し、つながる状況や環境はなかった。こうしたつながりのなさこそが、日本のイノベーションを起こす底力が本格化しなかった大きな理由だろう」

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