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破壊的イノベーションや起業家精神の重要性が叫ばれる一方、日本では画期的なイノベーションがない。課題などについて、東京理科大学特任副学長も務めたマイケル・クスマノ米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授が指南する。

マイケル・クスマノ[Michael Cusumano]
米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院
「スローン・マネジメント・レビュー」主幹教授

米ハーバード大学で博士号取得(Ph.D.)。ビジネス戦略と情報技術の研究で知られている。2016年から17年まで、東京理科大学特任副学長を務めた。

 IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の開発などで米国や中国に水をあけられ、イノベーション力の弱さが目立つ日本。活性化するためのカンフル剤はないのだろうか。日本企業の組織改革やイノベーションを長年研究してきた米マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・クスマノ教授は、イノベーションの質や組織マネジメントのスタイルに注目し、分析する。解説を聞こう。

 「イノベーションとは、端的にいえば『新しいことをする』ことだ。日本のイノベーション力が弱いとは思わない。日本は、特定の分野のイノベーションではむしろ強い。MITでは東京理科大学のチームと組み、日本のイノベーション力について研究してきた。

 そこで分かったのは、日本は、『つくること』には強い。つまり、少しずつ進化させていくイノベーションは得意だ。特許数も多く、他国とは違う技術があり、種類も豊富だ。しかし一方、組織的なイノベーションに強くない。あるいは、ビジネスモデルのイノベーションには強くない。これらは『ソフト面のイノベーション』だ。

 これからはソフト面でのイノベーションがより必要な時代になる。日本は商業的な技術イノベーションに強いのに、起業する余力があまりない。我々は、そのギャップを埋めようと活動してきた」

 積み上げる力が強いという日本のイノベーション力だが、では世界でどのぐらいの位置にあるのだろうか。

特許数で日本は世界2位

 「順位はイノベーションをどう定義するか次第だが、指標の一つにその国が生んだ特許技術の数がある。人口当たりで調整すると、韓国が世界一で日本は2位だ。特許をものさしにすれば、日本は大変イノベーティブといえる。

 イノベーションの中身を見ると、新素材や医療機器、加工技術など積み上げるタイプとなろう。だが新しい産業や新会社を創出するイノベーションとなると、日本はかなり順位を下げる」

 日本が不得意なのはまさに昨今、必要性が叫ばれている「ゼロイチ」のイノベーションなのである。

 「起業を指標にするなら、米国が相当上位にくる。イスラエルでも、技術力を強みとする膨大な数の会社が生まれている。イスラエルは、米国を除くと、世界で最もたくさん米国で上場している。フィンランドなど北欧の零細企業もイノベーティブだ。それは、ノキアのような大企業が苦境に陥った時に数多くの従業員が退社し、起業したことが理由の一つだ。

 また、科学技術が基盤のイノベーションがどの国で起こっているのかを見てみると、国際的に優れた大学のある国が目立つ。とりわけ米国と英国だ。大学が国際的で、米国ならMITやハーバード、スタンフォード、カリフォルニア大学バークレー校などに世界中の優秀な学生や研究者が集まっている。長年の蓄積があり、財政的にも豊かで助成金に頼る必要がないため、政府に管理されずに済む。

日経ビジネス2019年7月1日号 78~79ページより目次