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前回まで、AI(人工知能)が代替できる仕事や、人口減少との関係について考察した。今回はAIによる価格戦略が成立し得るのか、考察してみよう。

伊神 満 [いがみ・みつる]
米エール大学経済学部准教授
1978年生まれ。東京大学卒業後、証券アナリストを経て米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で博士号(Ph.D.)取得。専門は産業組織論。著書に『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』(日経BP)。

 前回まで、様々な仕事を自動化したらどうなるか、個々の業務面、及びマクロ経済面から考えた。業務面でいえば、それぞれの職種の中で仕事を細かくタスク分けし、どれを自動化し、どれに人の力を集中させるべきかを考え抜くことが大事だと分かった。

 またAI(人工知能)を使った自動化がマクロ経済にどうインパクトを与え得るのかについては、AIが奪う仕事と同時にAIで生まれる仕事があることに加え、人口減少がどう効いてくるのかを考慮に入れる必要があると述べた。

 最終回の今回は、AIを使った価格戦略について考察したい。

 「例えば、オンライン業態の小売企業や、スーパーマーケットなどを思い浮かべてもらいたい。『顧客の商品購入履歴を基に、今後最も売り上げ増加につながりそうな価格設定をする』という一連のタスクを、コンピューター上で自動化してみよう。

 もしこうした仕事をAIに丸投げできるなら、『過去の営業記録を基に、現在と未来のビジネスのための意思決定をする』という知的な営みの一つが、一応は自動化し得ることになる」

AIが、過去の個別の営業判断がどうだったかまでを知ることはできない(写真=PIXTA)

 購入履歴に基づく米アマゾン・ドットコムの「おすすめ」など、オンライン小売業のマーケティングは既におなじみだ。AIが価格設定をするには、何が足りないのか。伊神氏の話を聞こう。

 「さてAIによる『最適な価格設定』を実現するためには、『価格設定が売り上げに及ぼす効果』が分からないと何も始まらない。価格設定を『原因』、売り上げを『結果』と考えて、因果関係を調べる必要がある。経済学的に言い換えると、『需要関数』、つまり値段と販売数の因果関係を、データから推計する必要があるのだ。

 これをあえて式にすると以下のようになる。

 売上数量 = 価格設定(ほかに広告宣伝、商品特性、顧客特性、天気や季節など)の関数

 普通の需要関数なら、『値段が下がると、販売量が増える』という右下がりの線になるはずだ。たくさんの商品購入履歴(ビッグデータの典型)があれば、価格や広告のインパクトなどすぐに分かりそうなものだが、実は話はそう簡単ではない。

 『お客は値段がコロコロ変わるのを嫌うし、店舗にある数万品目の商品価格を逐一変えるのは大変。セール対象品などを除けば、どの商品も大体同じ値段にしておきたい』という店も多いだろう。それはそれで合理的な判断だ。

 しかし値段が一定だと、AIの値付けに必要な因果関係を調べることができない。統計分析のために必要な価格データのバラつきがゼロになってしまうからだ。

 また、仮に価格の変化が記録できたとしても、売り上げが増減する『原因』を知るための分析に使えるとは限らない。過去の価格には、その時点の担当者による市場予測や、需要とは関係ない理由による営業判断も反映されるからだ」

日経ビジネス2019年6月17日号 76~77ページより目次