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前回、仕事をタスクに分けて分析したら、すべての業務がAI(人工知能)で自動化できるわけではなさそうだと分かった。今回は、AIが奪う仕事・生む仕事と、人口減少がどう作用し合うかについて考察する。

伊神 満 [いがみ・みつる]
米エール大学経済学部准教授
1978年生まれ。東京大学卒業後、証券アナリストを経て米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で博士号(Ph.D.)取得。専門は産業組織論。著書に『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』(日経BP)。

 「AIの進歩で、ブルーカラーだけでなくホワイトカラーの仕事もなくなるのか?」という世間の懸念を検証するため、前回はまず仕事を細かくタスク分けし、自動化できるか否かを検討した。ここで重要なのは、AIによる自動化の実現=社会全体の人手による仕事の減少、とは限らないことだ。自動化できたとしても、その影響で新たな仕事が生まれる場合があるからだ。米エール大学の伊神満准教授が解説する。

 「例えば、エレベーターガール(エレベーター運転士)の仕事は、今でも時折デパートで目にするものの、基本的には『絶滅危惧種』である。これは自動化の犠牲者とも言えるだろう。一方で、エレベーターの自動運転化により、『エレベーター運行システムの開発や管理』のような仕事が新たに生まれた。

 ただし、新たな仕事はデパートの中ではなく、エレベーター製造会社や保守点検会社といった別の場所で生まれている。広い範囲における自動化のインパクトを知るには、その自動化技術が『奪う仕事』と『生む仕事』の両方を、業界に捉われない視点で幅広く見なければならない」

 つまり、AIによる自動化が進展しても、それが直ちに「社会全体の仕事の減少」とは言えないわけだ。もしAIに奪われる仕事の数を、新たに生まれる仕事の数が上回れば、世間のAI脅威論は“脅威”でなくなる。

減る場合も増える場合もあり

 「国の発展段階による制度や統治スタイルなどの変化を分析した著書『国家はなぜ衰退するのか』でも知られる米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授は、『消える仕事と新たな仕事』という視点を重視して過去の米国経済を分析した。アセモグル教授らは、過去30年間の米国データを分析した結果、『自動化(具体的には、工場への産業用ロボット導入)により生まれる仕事より、消える仕事のほうが多かった』と結論づけた。ところが、ドイツについて同様の分析をしたウォルフガング・ダース独ヴュルツブルク大学助教授らの論文『ロボットに適応する』では、米国とは対照的な結果が報告されている」

ドイツでは自動化が進んでいる
●産業ロボット導入比率の推移
米国では製造業労働者の比率が減少している
●製造業の労働者が占めるシェアの推移
出所:Wolfgang Dauth, et al, "Adjusting to Robots: Worker-Level Evidence", Federal Reserve Bank of Minneapolis, Institute Working Paper 13, August 2018より本誌作成

 ダース助教授らの論文では「ドイツでは1994~2014年の20年間、労働者1000人当たりのロボット導入数が欧州の2倍、米国の4倍多かったにもかかわらず、製造業の雇用は米国ほど減少せず依然として25%のシェアがあった」と紹介している(グラフ参照)。

 「これらの分析は、扱う対象やマクロなデータの性質上、因果関係の識別でツメが甘い傾向がある。そのため『過去30年間の米国のデータに見られた相関関係が、同時期のドイツのデータでは見られなかった』という程度に理解しておく方が安全だ。『ロボットの導入』と『仕事の増減』のどちらが原因でどちらが結果なのかが厳密に証明できたわけではなく、単に2つがほぼ同時に起こったことを示したにすぎないのである。それでも、2つの検証が、『自動化の進展はすべからく人間から仕事を奪うわけではなく、消える仕事が、新たに生まれた仕事より多い場合もあれば、その逆もある』という事実を示していることは間違いない」

日経ビジネス2019年6月10日号 148~149ページより目次