ローカル企業が、グローバル企業と互角に戦うための秘訣は何ですか。

 台湾の人口はわずか2300万人。持続的な成長を求めるのであれば、海外に活路を求めるのは必要不可欠であると、父は私に常に言い続けていました。しかし、こと消費財に関しては、中国大陸以外に進出している企業があまりありません。

 海外進出は、おそらく多くの台湾企業が一度は検討したことがあることでしょう。小さい市場で戦うローカル企業が大きくなるには、海外に出ていくしかありませんから。

 しかし、味の好みや衛生基準、物流、関税は国や地域によってバラバラで、食品・飲料メーカーにとって海外進出はなかなかハードルが高かったのも事実です。こうした障壁を克服するコストを考えると、薄利の消費財の海外展開が割に合わないと考えるのは無理もありません。

 しかし、スイスのネスレやオランダのハイネケンが台湾に進出してきているのに、どうして私たちがスイスやオランダに進出できないのでしょうか。

 もっとも、ただやみくもに海外展開すればよいというわけではありません。父がルートビアで失敗した際に学んだのは「競合商品のまねをしても勝てない」ということでした。従って我々は、勝負に出る場所をあえて選ぶようにしています。

李氏が考える世界への挑み方

  • ●ものまねは絶対にしない。消費者の「驚き」を引き出す商品を作る
  • ●小さくても「ブルーオーシャン」狙う
  • ●新規参入後の成否の判断は3年が目安。2ケタ成長なら投資は継続
  • ●帳簿の数字にこだわり、効率だけを追求してはならない

 この戦略は、とりわけミスターブラウンコーヒーの海外展開で生かされています。現在、世界30の国と地域で販売していますが、いずれも50%を超える市場シェアを押さえる競合がいない場所を選びました。強い競争相手がいないところで頭角を現すことができれば、投資を続けてよいと考えています。

 その目安は「3年以内に2ケタ成長を達成できるかどうか」です。こうしたルールに従って市場を選んだ結果、グアムやキプロスではシェア6割を達成しました。チェコでも販売が好調で、シェアが5割を超えようとしています。

<span class="fontBold">チェコではラッピング車両を使った広告を展開した(左)キプロスにおけるミスターブラウンコーヒーのプロモーションイベント(右)</span>
チェコではラッピング車両を使った広告を展開した(左)キプロスにおけるミスターブラウンコーヒーのプロモーションイベント(右)

 海外進出では販売効率を高めようとするあまり、大きな市場を狙いに行きがちです。しかし、そうした場所には競合がいるのが常。そのような「レッドオーシャン」に進出しなくても、よく探せば「ブルーオーシャン」は必ずあるものです。小さくても地道に市場を開拓していけば、それがのちに、大きな収益につながっていくのです。

 父はよく私に「帳簿の数字だけでは企業経営はできない」と言います。父がミスターブラウンコーヒーを売り始めた際、一番苦労したのは販路の開拓でした。スーパーなどの量販店はすべて大手飲料メーカーに押さえられていたため、父は小規模な個人商店やパパママショップを一つひとつ回ってミスターブラウンを置いてもらっていました。

 一度に商品を卸せる量販店と比べて、配送効率はとても悪いため、多くの飲料メーカーは小規模店を無視していました。しかし、商品の売れ行きは小規模店の方がはるかによかったのです。なぜなら個人商店には工場などで働く肉体労働者が頻繁に出入りしており、そこにはとても大きな飲料需要があったのです。

 私の海外戦略は、こうした効率のみを追求しなかった父の経験・経営哲学に基づいています。やはり私にとって父の存在は偉大で、今でもとてもかないません。

日経ビジネス2019年9月2日号 60~63ページより目次