こうしてみると、バラエティーに富んでいるはずのビール市場ですが、ワインやスピリッツなどの普及で、ビール全体の消費量は伸び悩む傾向にあります。選択肢はあるはずなのに、なぜビール離れが進んでいるのか。この問いの答えに、我々の勝算が隠れているのではないかと思いました。

 私は、ビール離れの原因は、消費者の成長にビール業界が追い付いていないことにあるのではないかと考えました。台湾の経済成長とともに、海外に行く人も増えました。ドイツやベルギーといった本場のビールを飲んだことのある人も増えています。ですが、経験豊富な消費者が満足できる商品が市場にない。裏を返せば、どれも似たり寄ったりで面白みがないということでもあります。

 ウイスキーの「KAVALAN(カバラン)」が成功したポイントの一つは、ウイスキー作りに適していないとされた亜熱帯性の気候で高品質のウイスキーが生まれた「意外性」「驚き」にあります。ならば、台湾のメーカーが本場ドイツと同様の品質のビールを作ったら消費者は驚くに違いない。私はここに、激戦といわれるビール市場に参入する意義があると感じました。要は、今まで台湾になかったビールを作るのです。

 「ウイスキーを始めたころと違って、消費者の舌も肥えている。ビールを始めてもいいのでは」と父に相談すると、父も私と同じ意見だったので早速ドイツに飛び、バイエルンで600年にわたりブルワリーを経営する一家と提携しました。彼らから製法を一から学び、18年6月に販売を開始したドイツビールが「Buckskin(バックスキン)」です。

<span class="fontBold">「Buckskin(バックスキン)」は13種類。ドイツビールの製法をそのまま取り入れて作られた</span>
「Buckskin(バックスキン)」は13種類。ドイツビールの製法をそのまま取り入れて作られた

 もっとも、バックスキンを成功させるためには、ブランドの認知度を高める必要がありますが容易ではありません。スーパーの冷蔵ケースには、世界各国のビールが並んでいますから。消費者の手に取ってもらうのは、相当、販促に知恵を使う必要があるでしょう。

 そこで3つの作戦を考えました。1つ目は、ターゲットを若年層やビールをあまり飲まない女性に定めたことです。既存のブランドに親しんでいる消費者の嗜好を覆すのは大変なので、まずは新しいもの好きの層を刺激する方法で、認知度を高められないかと考えました。

 2つ目は、数で勝負すること。我々は、計13種類のドイツビールを同じバックスキンブランドで販売することにしました。ヴァイツェン、ヘレス、ピルスナーと、ドイツビールがこんなに種類豊富だということを知っている台湾人は少ないだけに、これはSNSなどでも話題を呼びました。

 13種類の中には、コンビニでしか買えないものもあります。「限定品」を設けることで、特別感を出すなどもしました。やり方は、今のところうまく売り上げにつながっていると思います。

 そして3つ目は、飲食事業との相乗効果です。18年11月以降、バックスキンブランドの飲食店を4店舗開業しました。ビアハウス、焼き肉、ビールバーと、各店舗の形態は異なりますが、皆バックスキンが飲めるという点で共通しています。

 また、台湾に約50店舗弱ある「伯朗珈琲コーヒーショップ」を全面改装し、バックスキンが飲めるビアカフェに転換しています。缶のミスターブラウンコーヒーの普及とともに、店舗数を増やしてきたコーヒーショップ事業ですが、近年は外資系コーヒーチェーンなどとの競争にさらされるようになり、売り上げが鈍化傾向にありました。ならば、改装をしてバックスキンの認知度を高める手段として活用できないかと考えたのです。業態転換をすることで、店舗の利益率も改善できればと思っています。

 こうした店舗の業態転換は、今年の春に決めました。伯朗珈琲コーヒーショップに利用している不動産の35%が自社所有のものです。自前の物件だからこそ、スピーディーな業態転換が可能になっています。