500年以上もの歴史があるウイスキー業界で、ブランド力を急速に高めている「KAVALAN(カバラン)」。後発での参入ながら、なぜ世界のウイスキー愛好家の心を捉えることができたのか。台湾・金車グループの李玉鼎(アルバート・リー)総経理が、後発ならではの勝ち方を伝授する。

李玉鼎[アルバート・リー]

(写真=賴 光煜)
(写真=賴 光煜)
1965年、台湾新北市生まれ。明治大学商学部産業経営学科卒業。卒業後、父が創業した金車グループに入り、補佐役の後、総経理となる。金車グループは飲料メーカーで、主力の「伯朗珈琲(ミスターブラウンコーヒー)」は台湾の缶コーヒーシェア6割を占める。2005年にウイスキー蒸留所の建設を開始し、酒類事業に参入。ウイスキー作りに適さない亜熱帯性の気候を克服して作られたシングルモルトウイスキー「KAVALAN(カバラン)」の製造・発売に注力する。
缶コーヒーの会社が、どうしてウイスキーに参入したのですか。

 金車(キングカー)グループが主力とする飲料事業は、嗜好性の高いものです。必ずしも生活になくてはならないものではありません。それだけに、消費者の好みや経済環境に売り上げが大きく左右されます。

 ある商品が売れていても、トレンドがいつ変わるか分からない。継続して安定した収益を得るためには、複数の売れ筋商品を持つとともに、常に新しい事業に挑戦する「先取りの発想」が必要です。そのことを、父は常々、私に語っていました。

 1982年に父が始めた缶コーヒー事業は好調でしたが、お茶やポカリスエット(編集部注:大塚製薬との合弁会社設立により販売)、乳酸菌飲料、ミネラルウオーターと、取り扱う商品を徐々に増やしてきたのは、こうした理由が背景にあります。

 実際、90年代後半に入ると、台湾の経済成長に伴い、人々の所得水準が向上しました。飲料市場も国内外から多くのプレーヤーが参入し、さまざまな商品が店頭に並ぶようになりました。競争が激しくなり、成長も以前のような一筋縄ではいかなくなりました。

 そんな中でチャンスが訪れます。それは、台湾の世界貿易機関(WTO)への加盟です。加盟に当たり、台湾政府はそれまで政府の専売であった酒類事業を放棄し、民間に開放することになりました。

 酒業への参入は父の夢でもありました。台湾人がよく飲むお酒はビールです。しかし、WTO加盟後は関税が下がり、外資はじめ多くのメーカーが市場に参入してくることが予想されました。国内からも多くの企業がビール造りを始めるでしょう。だからビールは、私たちが最初に参入する酒類事業としては適切ではないと、私も父も考えました。

新規参入は伸びている市場に

 参入するならウイスキーがよいのでは、という結論に至ったのは、世界的に市場が伸びていたからです。後ほど詳しく説明しますが、80年代後半、世界のウイスキー全生産量の約6割を占めるウイスキーの本場、スコットランドでは「シングルモルトウイスキー」がはやり始めていました。

 この波は少しずつ世界に広がり始めていました。経済成長に伴い、台湾でも若年層よりも所得が高い40代以上の層がウイスキーを手に取るようになっていました。良いものを作ることができれば、比較的強気な価格設定でも受け入れられると思いました。

 もっとも、台湾の人口は2300万人。市場規模としては小さいです。販売がうまくいったとしても成長余地は限られるでしょう。最初から世界を販路の一つと捉えて戦略を立てる必要がありました。このような理由からも、成長トレンドがはっきり出ているウイスキーがよいということになりました。