「不退転の決意を抱けるか。リーダーは意見が異なる相手と徹底的な対話を」

 読書が私の幼い頃からの趣味だ。小説から経営書まで、ジャンルは問わない。多い時は(「積ん読」を含め)年間300冊は読んでいた。中でも青年期から心引かれたのが、欧州各地を征服したナポレオンや古代ギリシャのアレキサンダー大王など、スケールの大きい世界の英雄譚(たん)だった。

 役員として全日本空輸(ANA)の発展に力を尽くしていた1990~2000年代、年1冊のペースで発行される新刊を心待ちにしていたのが塩野七生さんの代表作『ローマ人の物語』だ。壮大なスケールでローマの建国から滅亡までの歴史が描かれている。中でも印象に残っているのはカエサル(シーザー)だ。

 「賽(さい)は投げられた」──。カエサルは政敵であるポンペイウスと対決する決心を固め、当時将軍が兵を率いて渡ることを禁じられていた本国イタリアとの境界、ルビコン川を渡る。不退転の決意で退路を断って、一線を越えた逸話だ。私は20年前、改めてこのエピソードの章を読み返し、「カエサルに比べると自分の覚悟はまだまだ甘い」と思わされた。

 社長就任1年目の01年度、ANAは米同時テロや日本航空・日本エアシステムの統合決定などに揺れ、最終赤字に転落した。翌年度は当初業績回復を見込んでいたが、結果的には01年度を上回る最終赤字幅に。そんな03年春、航空業界に重症急性呼吸器症候群(SARS)が襲いかかる。

 まさに危機の真っただ中にいたが「04年3月期に復配できなければ社長を退任する」と社内に宣言した。実現すれば7年ぶりだ。業績が悪化する中での「復配宣言」は周囲から止められもしたが、自分の中ではひそかな決意として胸中にとどめておくのではなく、公表することで後戻りできなくなるという「ルビコン川を渡る」覚悟を決めていた。