「早期の成功を道標にして『死の谷』への転落を防ぎ 改革を本物に変える」

 2年で成功した事業再生のケースで、私は不思議な経験をしたことがある。改革1年目の前半、つまり具体的仕組みは準備中でまだ何も作動していない時期に、売り上げが上がり始め、生産コストも下がったのである。

 その改善はなぜ始まったのか。しばらくして私はハッと気づいた。社員たちの活動の「熱量」が上がっているのだ。例えば、営業マンの1日の訪問件数が増えている。客先訪問に1日2軒しか行かなかった営業マンが3軒回れば、5割の増員を行ったのと同じだ。皆の歩くスピードさえ速まり、仕事の生産性が高まっていることがうかがえた。

 この熱量アップはどこから来たのか。明らかに、改革シナリオが起爆剤になっている。従来は考えたこともなかった斬新な改革の考え方に、幹部や社員が「これが最後のチャンスだ」と乗った。その途端、彼らの活動熱量が上がり、頑張ることが苦にならなくなった。

 私はその経験から貴重な学びを得た。経営者や事業再生専門家が示す改革案が、社員の心を奮い立たせるほどの「切れ味」、その改革エネルギーを長期に維持させる「ストーリー性」を持つか。そのことが経営者に必要な技量であることを改めて認識した。

 改革を始めてすぐに業績改善の兆候が出てくるというのは、一見すると素晴らしい。だが、会社の活性化を社員の頑張りに依存する改革は、1年もすれば勢いを失う。「皆が疲れてくる」のに合わせて、業績効果も息切れする。改革シナリオには「社員の疲労感」を計算に入れておく必要がある。

 再生の勝負は、皆が心理的に元気な間に効果を根付かせるための「仕組み」をいかに具体的に構築できるかにかかっている。それが効率的に進めば、1年が経過した頃から仕組みは動き出し、順次、改革の効果が生まれる。