「戦争のない平成が終わる 新しい時代に向けて、安保の在り方を考えよう」

 2月24日、天皇陛下の在位30年記念式典が行われた。陛下のお言葉を拝聴し、これまでどれほどのご苦労があったことかと思うと、国民の一人として、改めて敬意と感謝の念で胸がいっぱいになる。

 陛下は、現在の憲法の下で初めて、象徴天皇として即位された。陛下がお話しになられたように、平成の30年間は日本の近現代史において初めて、戦争がない時代となった。その間、陛下は国民の幸せを心底から祈念された。私たち国民に対する大変大きな贈り物だ。

 私はこれまでに2回、陛下にお目にかかる機会をいただいた。その時も、陛下のお話からは、日本、そして日本国民統合の象徴として、平和を願い、国民の幸せを祈り続けるお気持ちをひしひしと感じた。

 私たちは、陛下の平和を希求するお気持ちを、しっかりと心に刻み、新たな時代に引き継いでいかなければならない。

 折しも同じ日に沖縄で、米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の是非を問う県民投票があった。投票者の7割超が反対だった。様々な理由があるだろうが、「できるだけ戦争に近づきたくない」という沖縄県民の強い思いは、共通だろう。

 日本の平和をどのように守っていくのかは、当然ながら沖縄だけの問題ではない。日本が導入を計画している、陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」では、秋田県、山口県が配備の候補地となっている。だが、レーダーなども含め1基あたり約1340億円ともいわれる巨額の導入コストや、トランプ米大統領と金正恩北朝鮮委員長との会談などによる朝鮮半島情勢の変化で、その必要性を巡り議論が巻き起こっている。

 戦後、日本は米国の軍事力に頼ってきた。核兵器や空母、戦闘機、海兵隊、ミサイル……。第2次世界大戦以降、日本を防衛するための米国の抑止力の柱は大きくは変わっていない。しかし、安全保障を取り巻く状況が大きく変化している中で、日本の防衛力の中身と在り方も根本的に見直すべき時が来ているのではないだろうか。

 例えば辺野古への基地移設工事は、沖縄県の試算では完成までに13年はかかるという。米中をはじめとした国家間のパワーバランスの変化や技術革新の進展などを考えると、辺野古の基地が完成した頃には、防衛の姿が大きく変わっている可能性がある。サイバーアタックの高度化や宇宙空間の軍事利用など、これまでの抑止力の中身が役に立たなくなるような新たな要素が次々と出てきていることは想像に難くない。

 もちろん、防衛をしなくていい、というわけではない。人間が主役の世界では不要とはなりえないだろうが、10年、20年先の世界を見据えた時に、これからの時代に即した防衛の在り方をどう考えたら良いのか、もっと国民的に議論をした方がいい。基地を作る、ミサイルを導入する、といった従来型の防衛の考え方を踏襲しているだけで、日本の平和を本当に維持できるのだろうか。

 平成の30年間、日本が戦争に巻き込まれなかったのは、陛下のお言葉にもあるように、国民一人ひとりが平和を願い、努力してきたことが抑止力となったからだ。辺野古移設に「反対」を投じた沖縄県民の声は、国民の思いの表れでもあるだろう。

 日本は「戦争をしない」を国是としている。その「専守防衛」の考え方に基づいた、戦争に近づかない新しい安全保障とはどのようなものか。平成の時代が終わる今こそ、傲慢な心を捨て、冷静に謙虚に、かつ真摯に考えるべき時が来ている。

日経ビジネス2019年3月18日号 126ページより目次

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