経営学と歴史学の融合が進む中、老舗企業に改めて注目が集まっている。古文書などの1次史料を発掘しながら研究、事業存続のメカニズムを分析。日独の比較から共通点と相違点が浮かび上がってきた。

曽根秀一[そね・ひでかず]
静岡文化芸術大学 准教授
1977年生まれ。滋賀大学大学院で博士号取得。専門は経営戦略論、組織論、企業史。カナダ・メモリアル大学客員研究員などを経て2017年から現職。

 経営学と歴史学を融合する重要性が再認識されつつある。例えば経営戦略論で代表的な経営学者、米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、少し前まで歴史を論じることなどほとんどなかったが、近年は企業の歴史から強みを生む「独自性の核」を見つけ、戦略を取り戻す重要性を論じている。世界でも注目されている視点だ。

 日本は世界一の長寿企業大国として知られる。帝国データバンクによると創業・設立から100年超の企業が3万3259社ある(2019年時点)。経営学と歴史学を融合する流れの中、海外でも日本の長寿企業に関心が寄せられ、私が参加する研究を通じて「Shinise(しにせ)」という言葉も世界で知られつつある。とはいえ創業期や危機を乗り越えた話などは伝聞の域を出ないケースもあり、筆者は古文書などの1次史料を発掘しながら研究を進めている。

最古の金剛組を最新手法で分析

 注力してきたのが、金剛組(大阪市)の調査・研究だ。創業578年の最古の企業で、初代金剛重光は聖徳太子に招かれ、朝鮮半島から渡来し四天王寺の建設にかかわったと伝えられる。以後、金剛家は四天王寺のお抱えとなり、代々建築工事で中心的な役割を果たす「正大工」の役を務めた。

 ここまでは比較的知られているかもしれないが、経営学と歴史学を融合する視点から私が特に注目するのは江戸中期に活躍した32代喜定が亡くなる間際に残した「遺言書」だ。帳面が残っていて1次史料としての価値があるうえ、内容はその後の金剛組に多大な影響を与えている。

「組」制度が金剛組の技能伝承に貢献
●金剛組の組織図
<span class="fontSizeL">「組」制度が金剛組の技能伝承に貢献</span><br>●金剛組の組織図
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<span class="fontBold">金剛家に代々伝わってきた「金剛氏系図」。存続を第一義とする歴代当主の選定の仕組みがうかがえる</span>
金剛家に代々伝わってきた「金剛氏系図」。存続を第一義とする歴代当主の選定の仕組みがうかがえる

 喜定は遺言書で「一番大切なことは、家名が安泰で相続することである」とする。これは家の存続、四天王寺との関係維持、職責の全うといった使命感に基づいているだろう。その上で喜定は長期存続に大切な心得を4つの視点から挙げる。第1に宮大工として学ぶべきこと。第2は対顧客の視点で、出過ぎたことをしないよう戒めることを記す。第3は家の存続について、親類に相談し物事を決める合議を行うとする。第4が日ごろの生活態度への注意であり、例えば大酒を慎め、人を軽んじ威張ってはならない、などと諭す。4つの視点は実践的な心得となっている。

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