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MMT(現代貨幣理論)という経済理論が最近、大きな注目を集めている。一定の条件の国は政府債務を増やし続けても問題はないとする。だが、現実的には難しい。

長内 智[おさない・さとし]
大和総研主任研究員
2006年、大和総研入社。12年から内閣府で経済財政白書などを担当。14年帰任、日本経済担当エコノミスト。18年10月から現職(金融資本市場担当)。

 MMTの骨子を簡単にいえば、自国通貨で借金(国債)ができて、それを国内で消化できる国は、財政赤字や政府債務の大きさを気にせず、継続的に財政出動できるというものだ。

 「自国通貨を持たない」というのは、ユーロ圏の国のようなことである。また「国債を国内で消化できる」とは、日本のように、国債の引き受け手となる投資家が国内に多数存在するということだ。つまり、MMTではそうした国は、多額の借金をしても問題はないというのである。

 この理論が注目を集めたのは、2018年の米国の下院議員選挙で女性として史上最年少の議員となったアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏が、MMTを支持してからだ。オカシオ氏は、再生可能エネルギーの拡大など地球温暖化対策を進めて経済を活性化する「グリーン・ニューディール」を提唱しており、そのためにMMTを支持したとされる。

インフレは政府が調整できる

 オカシオ氏自身が下院選で注目されたこともあり、MMTは米国で大きな論争となった。またこの時、オカシオ氏を理論的に支援したのが、16年の米大統領選の民主党予備選挙で若者の支持を集めて台風の目となった、バーニー・サンダース上院議員の経済ブレーンであった経済学者、ステファニー・ケルトン米ニューヨーク州立大学教授だった。

 同教授はMMTの主唱者の一人であり、サンダース上院議員は医療の皆保険制度導入など大きな政府型の政策を主張する無所属最左派。MMTは、政府が格差拡大を解消するために積極的に財政を使うべきだと主張する、こうした人々の理論的支柱のようにも見られたのかもしれない。

 筆者はこの理論を支持しているわけではないが、日本でも話題となっていることから、MMTについて考えてみた。

政府債務が増えても長期金利の動きには違いがあった
●日本とギリシャの政府債務残高GDP比と長期金利の動き
自国通貨のないギリシャは財政悪化とともに金利が急騰したが、日本はそうならなかった(上は安倍晋三首相)(写真=左:AFP/アフロ、右:共同通信)
出所:経済協力開発機構(OECD)、大和総研の資料を基に本誌作成
日経ビジネス2019年9月16日号 102~103ページより目次