保険財政は悪化の一途をたどるが、オプジーボなど高額医薬品の登場が相次ぐ。薬の費用対効果を評価する取り組みが日本でも今年4月に導入された。どのような薬に保険を適用すべきか、具体的なルールが必要だ。

五十嵐 中 [いがらし・あたる]
東京大学大学院 特任准教授

2002年東京大学薬学部薬学科卒業。08年東京大学大学院薬学系研究科博士後期課程修了、同特任助教、15年から特任准教授。医療経済関係の著書多数。

 がん治療薬のオプジーボをはじめ、C型肝炎治療薬のソバルディ、ハーボニーなど、高額な医薬品の登場が相次ぐ。今年5月には白血病治療薬のキムリアに1回3350万円という高い値が付き、話題をさらった。

1000万円以上かかる診療が増加
●過去9年の1000万円以上の診療報酬明細書の件数の推移
1000万円以上かかる診療が増加<br><small>●過去9年の1000万円以上の診療報酬明細書の件数の推移</small>
出所:健康保険組合連合会
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 国の医療費は42兆円に達し、国の予算の4割を占める。「この状況を何とか改善しなければいけない」という意識が広がり、国の制度も変わり始めている。

 例えば「費用対効果評価制度」だ。価格と効き目のバランスを吟味する制度で、今年4月から本格的に始まった。患者の健康寿命を500万円以下のコストで1年延ばせれば、費用対効果が良いと判断され、逆に500万円を超えると薬価は段階的に引き下げられる。基準値の500万円は、がんの治療薬については750万円までと引き上がる。2016年からの試行的導入で、オプジーボやソバルディも評価の対象になった。

 だが、一部の薬価を調整するだけで、保険システムを維持できるのだろうか? 他の薬価抑制策や、高齢化や技術革新が進む中、力不足な面もある。

 日本では、ほぼ全ての医薬品が公的保険でカバーされる。「国民皆保険だから当然」とされることだが、実は世界的には珍しい。英国や北欧諸国、韓国、オーストラリアなどの「皆保険」の国でも、公的医療制度で使えない薬はある。またフランスでは、個々の薬の有効性・安全性に応じて公的保険の負担割合が変わる。

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