老後も働き続けなければ、経済的に「人生100年時代」を乗り切れない――。英ロンドン・ビジネススクール、リンダ・グラットン教授の主張は日本で多くの共感を呼んだ。若い頃に身につけたスキルは、技術の進歩で陳腐化するため、生涯にわたり学び直しの姿勢が求められるという。ChatGPTは知的労働を陳腐化すると警告。人生の荒波への対処法とは。
(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行、吉野 次郎)

リンダ・グラットン[Lynda Gratton] 氏
1955年、英国生まれ。英リバプール大学で心理学の博士号を取得。英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)のチーフ・サイコロジスト(主任心理学者)や、英PAコンサルティンググループのディレクターなどを経て現職。人材論と組織論を専門とする。日本では共著書『ライフ・シフト』を通じて「人生100年時代」という言葉を広めた人物としてよく知られる。2017年には安倍政権(当時)の「人生100年時代構想会議」のメンバーとなる。
共著書の『ライフ・シフト』(東洋経済新報社)が日本でベストセラーになりました。「教育」「仕事」「引退」という3つのライフステージからなる一方通行の生き方では、「人生100年時代」を乗り切れないと主張し、大きな話題を呼びました。
日本のように国民の平均寿命がとても長くなれば、人々が家計を支えるために仕事をしなければならない期間も長くなります。その間に技術の進歩により、労働市場で必要とされる職種は入れ替わります。ですので、生涯のキャリアを1つの専門分野だけで築こうとする、従来型の3つのステージの生き方は適しません。
何歳になってもワクワク
社会に出て働き始めてからも、探求心を失うことなく、ワクワクしながら生涯にわたって学び続ける姿勢が求められます。学校に入り直して新たなスキルを身につけたり、世界中を旅して視野を広げたり、これまでとは異なる職種や、起業にチャレンジしてみたりというように、さまざまなステージを行き来する「マルチステージ」の生き方で人生100年時代を乗り切るべきです。
ただ、「新卒で採用された会社で定年まで働き、引退後は年金生活に入る」という、3つのステージの生き方を志向する日本人が多いのが実情です。どうすれば日本人の意識が変わると思いますか。
3つの提案があります。まず第1に、自分自身の一生涯を高い位置から見下ろすことをお勧めします。70代や80代になったら何をしていたいのだろうかと自問して、そこに至るまで道が延びていると想像してみてください。日々の出来事ばかりに目を奪われることなく、人生全体を俯瞰(ふかん)するのです。
第2に、本業とは別のプロジェクトに挑戦したり、今までとは異なる生き方を模索したりして活動の幅を広げてみましょう。これはリスクを取って、生きる路線を変更するための準備になります。
そして3番目として人的なネットワークを広げることを提案します。その際、自分と違う背景を持つ人々と交流することがとても大切です。
例えば自らビジネスを起こした人や、世界中を旅行してきた人、ボランティア活動に熱心な人などと付き合うことができれば、自分の人生の可能性について、もっと大きく想像を膨らませられるようになります。

企業はマルチステージの生き方にどう対応すればよいですか。
新卒の若者ばかりを採用するのではなく、50代や60代でも入社できるような、多様な雇用の機会を設けるべきです。また社員たちに画一的に業務を与えるのではなく、社員の人生のステージに応じて、業務内容を決めるのが望ましいでしょう。
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