ChatGPTの衝撃が世界を揺さぶっている。AI(人工知能)が雇用や生活に与える影響は大きい。「2030年までに米国の雇用の47%が自動化する」と10年前に予想したマイケル・オズボーン教授。私たちは先端技術とどのように向き合っていくべきかを聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行、藤原 明穂)

(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)
PROFILE

マイケル・オズボーン[Michael Osborne]氏
2002年から05年にかけて西オーストラリア大学で数学、物理学、機械工学で学士号を取得し卒業。10年、英オックスフォード大学で機械学習の博士号(Ph.D.)を取得。同大学でポストドクター、リサーチフェローなどを経て12年に准教授、19年から現職。日本のAI(人工知能)ベンチャー、エクサウィザーズの顧問も務める。13年にAIと雇用の未来についての共著論文で「米国の雇用の47%が自動化する」などと推測し、世界中に衝撃を与えた。

新型コロナウイルス禍は人々の暮らしに変化を及ぼし、企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めました。その間に、AIはどのように進化したのでしょうか。

 私たちの生活で身近な例を挙げれば、ホテルのチェックインが機械に代替されたり、精肉の梱包が自動化されたりしました。コロナ禍によって人と人とが接触を避けざるを得なくなり、AIによる自動化が進んだためです。オンライン会議が普及したことで外出の機会が減り、タクシーや飛行機を使う需要は低下しました。食料品すら買いに行かなくなりましたね。そのため、配送業は成長しました。配送業で成功している企業は、より自動化を進めた傾向があります。

 自動化に多額の投資をした英国のあるオンラインスーパーでは、倉庫にロボットを配置して宅配する商品を収集しています。スーパーの実店舗で働いていた従業員が、倉庫で稼働するロボットに代替されたのです。

 しかし、こうした自動化がもたらすプラス効果は短命に終わるでしょう。実際、同スーパーの株価は既に暴落していますし、コロナ禍に好調だった大手テック企業は現在、大量解雇を進めています。

 一時は活発だった自動化への投資ですが、コロナ禍の長期化が心理的な重荷となり、さらなる投資に慎重になっているからだと見ています。

オズボーン教授が2013年に共著で発表した「雇用の未来」では、米国の雇用の47%が30年には自動化する可能性があると論じました。コロナ禍の影響を含めて、予測に変化は起きていますか。

 過去10年で様々な変化が生じました。予測は大方合っていましたが、想定以上に変化した分野もあります。

 最も自動化されると予想した職業の一つに「ファッションモデル」があります。「98%の確率で自動化される」と予想しました。10年前は「本当にその変化を信じているの?」とよく聞かれましたが、今では企業がデジタルモデルを生成していますよね。

 デジタルモデルはどのブランドの商品でも着こなせ、写真撮影もできます。できないことといえば、人間のようにランウエーを歩くくらいです。しかし、それはそれほど重要ではありません。

 「自動化」は、人間の行為を機械が全て代替することを指すわけではありません。しかし、機械を基準に置いて、私たちの仕事や生活を再考する価値はあると言えるでしょう。

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