2016年から米Visaのトップとして、世界の決済ネットワークの構築・発展をけん引してきた。日本のキャッシュレス決済市場は「まだまだ伸びしろがある」と非常に楽観的にみている。決済市場の進化を通じて、世界をより小さくしていくことを目指す。
(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

アルフレッド・ケリー[Alfred F.Kelly,Jr.]氏
1958年生まれ。米ペプシコの戦略企画担当、米ホワイトハウスの情報システム責任者を経て87年から2010年まで米アメリカン・エキスプレスにてプレジデントのほか、グローバルコンシューマーおよびコンシューマーカードサービス部門の責任者など要職を務める。米Visaには14年に独立取締役として加わり、16年12月に最高経営責任者(CEO)に就任。23年2月から現職。米アイオナ大学でコンピューター・情報科学の学士号およびMBAを取得している。
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、旅行需要などが回復する一方で、歴史的なインフレが世界を襲っています。今後の世界経済、個人消費をどう見ていますか。
世界的に見て、消費者の支出は安定しており、大きな落ち込みは見られていません。もちろん、インフレの影響でエネルギーや食品の支出は増えているので、自分の好みや裁量に応じて使えるお金は減っていますが、全体の支出額は変化がない。
今年こそ景気後退に陥るのではないかという声もありますが、景気後退になったとしても、比較的短期で、それほどひどい状況にはならないのではないかとみています。
それに、間違いなく人々は旅行をし始めています。もちろん、まだ地域によって温度差がある状況ですが、新型コロナ禍で会えなかった家族や友人に会おうとする動きが高まっています。旅行需要の回復に関しては、楽観的にみています。
米Visaの2022年10~12月期の業績は非常に好調でした。一方で、米国の中堅カード会社ではカード債権の不良債権化や、支払いの遅延といった動きも増え始めています。
データを見る限り、さほど深刻な状況ではないと思います。我々は常に、「Visa取扱高」に占める、(銀行口座から利用額を即時引き落としする)デビットカードとクレジットカードの比率に注目しています。コロナ禍では、デビットカードの利用が急速に伸びる一方、クレジットカードのほうは減少する傾向が米国や先進諸国で見られました。デビットカードの利用は一度もマイナスに転じることはありませんでした。
デビットカードの利用が急増
クレジット利用が増えると延滞なども増えますので、返済延滞や不良債権の増加はこれまで落ち込んでいた利用分の回復に伴うものとみています。今の時点ではこれが懸念する事態とは思っていません。もう四半期、来四半期の状況を見てみないと判断できない状況です。
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