2022年夏に大規模な障害に見舞われたKDDI。業界横断で対策に動いている。「5G」を中心に据えて収益基盤を固め、金融や仮想現実などに力を注ぐ。環境が激変するなか、通信業界の新たな役割とは。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
PROFILE

髙橋誠[たかはし・まこと] 氏
1961年、滋賀県生まれ。84年3月横浜国立大学工学部卒。同年4月に京セラに入社した後、稲盛和夫氏がNTTの対抗軸として創業した第二電電(DDI、現KDDI)に入社。携帯電話のインターネット接続やコンテンツ配信、決済など電話の枠にとらわれない事業の多角化に携わったほか、スタートアップ企業と大企業を結ぶ支援プログラムも立ち上げた。2007年に取締役、10年専務、16年副社長。18年から現職。61歳。

2022年7月にKDDIで起きた通信障害から半年以上がたちました。改めて通信事業者の役割と責任をどうとらえていますか。

 障害が発生したのは、ちょうど中期の経営戦略を発表した直後でした。そのとき、00年のKDDI発足時に策定した企業理念を分かりやすくしようと、30年に向けて「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」との言葉を掲げたのです。

 「つなぐチカラ」の定義は命と暮らしと心をつなぐこと。まさにIoTのような世界のことなのですが、その矢先に起きた障害でした。スマートフォンが普及した今は固定電話があった10年前とは違い、障害が起こると代替手段がなくなってしまいます。

 それこそ救急車も呼べなければ、気象庁の地域気象観測システム「アメダス」もATMも普段通り使えないといった事態につながってしまうことを改めて感じました。

 皆様には本当に大変ご迷惑をかけて申し訳なかったのですが、24時間365日、時には徹夜もしながら通信インフラを支えてくれている社員の存在も、改めてとても大事だと再確認しました。急に呼び出されて夜帰ってこないお父さんは実はこんな仕事をやっているんだよ、とご家族に見てもらうイベントもやりました。

今後、業界全体でどのように障害対策を進めますか。

 不謹慎かもしれませんが、やはり設備は一定程度壊れるリスクがある。今回思ったのは、想定される様々なリスクについて、代替策を準備しなければならないということです。お客様からも「自らもっとBCP(事業継続計画)を考えておくべきだった」といったお話を頂きます。

 緊急時に他社の通信網を借りる「ローミング」も必要ですが、それだけでは対応に時間がかかることも考えられます。そこで、他社の回線が使えるオプションとして月々数百円程度を頂き、障害が起きたときは従量制で料金を頂くような形はどうかと各社で検討しています。

 私も今ではauだけではなくNTTドコモさんのも含めて2つの回線を使っていますが、障害当時はauしかなかったので社内で連絡を取るのに苦労しました。今は障害があっても、役員全員が他社回線でも連絡が取り合えるようにしています。

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