富士通の時田隆仁社長はDX(デジタルトランスフォーメーション)を支える企業への変身を宣言してきた。伝統的なITベンダーからの脱却を目指すが、道半ばだ。会社が変わる原動力は人だと強調、その力を引き出す改革を進める。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=竹井 俊晴)
(写真=竹井 俊晴)
PROFILE

時田隆仁[ときた・たかひと] 氏
1962年生まれ。88年に東京工業大学工学部を卒業し、富士通に入社。SIソリューション部門のシステムエンジニアとして、生命保険やメガバンクなどの業界を担当。2014年から金融システム事業本部長、15年に執行役員となった。その後、執行役員常務兼グローバルデリバリーグループ長として、システムの保守・運用に関わる世界8つの拠点を統括し、19年6月から現職。東京都出身。

2019年、社長に就任して「IT企業からDX企業へ」というスローガンを掲げました。背景にどんな危機感があったのでしょうか。

 いろいろなところで話していることですが、DX企業とは何ですかという質問を社内でもよく聞かれました。正直なところ、当時確かな像があったわけではありませんでした。ただ、伝統的なITベンダーから変わらなければいけない、ソフトやソリューションのサービスが大切だという話はしていたのです。要は、変わるということを明確に表したかったのです。

旧来のITベンダーだと、どんな課題があるのでですか。

 もうからないのです。ニーズがないというのではなく、稼げない。

 社長になる直前にグローバルの部門を担当していて「マネージドインフラサービス」という事業が非常に苦戦していました。顧客が保有・運用するオンプレミスサーバーなどを土台にして、システム開発や保守運用のビジネスを積み上げていくのですが、もう本当にきつい競争ですよね。当社は世界中でサーバーの運用・保守ができ、期待されてはいましたが、膨大な担当人員を抱えている海外企業と激しい価格の争いになる。

 グローバルなサービスを求める企業は、各拠点で個別にサービスを提供してくれとは言いません。グローバルスタンダードでやる必要があるからです。そして、標準を使う限りは価格の安いところを選びますよ、ということで発注者優位に立とうとしている。

 システムの保守・運用など従来型ビジネスは今、主力事業の売上高の6割以上を占めています。しかし、いずれ3割程度になるのではと予測してきました。世界で広がる標準化の潮流や、クラウドサービスを展開するプラットフォーマーの影響が、必ず日本にも押し寄せると考えていたからです。

変革へ見え始めた成果

20年にコンサルティング子会社、リッジラインズ(東京・千代田)を設立しました。成果は出ていますか。

 リッジラインズは、国内外の幅広い企業とのアライアンスにより、富士通グループの製品やサービスにとどまらない最適なテクノロジーによるDXを支援します。新型コロナウイルス禍の中で船出して大変ではあったんですが、収益が生まれ、確実に成長しているという意味ではうまくいっていると思います。

 テクノロジーコンサルでは、例えばある製造業のお客様と、経営状況をグラフやデータで示すダッシュボードをつくる案件がありました。CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)の方々とコミュニケーションし、経営として何を見たいかなどを議論して、必要なITの仕組みを入れるのです。

 業務コンサルも担っていて、化粧品メーカーのオルビスでは個人に合った商品の企画・マーケティングに加わりました。必ずしもシステムに絡まない、ブランディングとかそういった部分にも関わるのです。

ライバルはアクセンチュアのような企業ですか。

 確かに株主の方々は、期待を込めてでしょうけれども、富士通を伝統的なIT企業として見なくなっているように感じています。我々としても変わっていくために、リッジラインズを出島と位置づけ、富士通本体とは少し距離を置き、報酬体系や人事制度を柔軟にしてきました。固定費である人件費や報酬は、思い切って強弱をつけています。

 300人でスタートし、今は400人程度になっています。もともと富士通の社員をベースにしていましたが、外部のトップコンサルタントも入ってくるなど人材が入れ替わっています。もっと富士通と連携したほうがいいと言われますが、もちろん連携はしていますし、グループとして案件は共有しています。

 しかし、DX企業になったかと言われれば、まだ5合目でしょう。

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