2023年3月期の最終利益は5300億円と史上最高益を見込む。リストラを断行し、社長就任直後に計上した3年前の過去最大の赤字からV字回復を成し遂げた。 先を行く商社3強の背中はまだ遠い。丸紅らしさをどう発揮するのか。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
PROFILE

柿木真澄[かきのき・ますみ]氏
1957年、鹿児島県生まれ。80年東京大学法学部卒業、丸紅入社。主に電力事業を担当し、2014年に丸紅米国会社社長・CEO(最高経営責任者)。16年に電力・プラントグループCEOとなり、19年4月から現職。趣味は中学から大学まで取り組んだサッカーと、地元のコーラスサークル。好きなサッカー選手はベッケンバウアー。

2023年は、昨年から続くウクライナ戦争や資源高、インフレなど様々な不安要因があります。

 毎年、「今年は激動の年になる」と言っていて、実際に何かが起こるんですよね。新型コロナウイルスの感染に慣れてきた頃、まさか戦争が始まるとは誰も思っていませんでした。今年も何か起こるのでしょう。「常に有事」という気持ちで構えています。

 一方で、商社は世の中が平穏無事だと「不要論」が出てきてしまう。「(海外展開や材料調達は)自分たちでできるから、もうおたくはいいよ」という訳です。決して有事を望んでいるわけではありませんが、有事の時こそ我々商社の出番が多くなると考えています。

平穏な時に不要論が起きるとは、変わった業種ですね。

 商社の機能は(経済や産業の)「サプリメント」なのでしょう。リスクを先取りしたり、他の企業の補完的な動きをしたりして、「隙間」を埋めていく。だからこそ、しぶとく生き残れる業態じゃないでしょうか。

総合商社は「総花的」や「コングロマリット(複合企業体)ディスカウント」などと指摘されてきましたが、有事はそれが強みになると。

 「総合」故のしぶとさは、コングロマリット「プレミアム」と評価してもらってもいいんじゃないかと思っています。「選択と集中」で事業を絞り過ぎると、何か起きたとき、その潮流に流されてしまう。メーカーや銀行でもなく、ましてや投資会社でもない総合商社は、流されにくさがあると言っていいでしょう。

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