新型コロナウイルス禍を克服し、2022年3月期は連結売上高、営業利益で過去最高を記録。M&A(合併・買収)で取り込んだ事業のシナジーを引き出す、「相合(そうごう)」が原動力だ。強力なリーダーシップの糧となる経営哲学とは。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)
PROFILE

貝沼由久[かいぬま・よしひさ]氏
1956年東京都生まれ。78年に慶応義塾大学法学部を卒業。87年には米ハーバード大学ロースクールで法学修士課程も修め、88年にミネベア(現ミネベアミツミ)に入社した。2009年にミネベア社長に就任し、17年のミツミ電機との経営統合後から現職。日本と米ニューヨーク州で弁護士活動をした経験も。

2022年3月期は連結売上高、営業利益でともに過去最高を更新するなど好業績をたたき出しました。コロナ禍をどう乗り越えて強くなったのでしょうか。

 われわれは「8本槍(やり)」と呼んでいますが、ベアリング(軸受け)やモーター、センサー、アナログ半導体など8つの分野をコア事業としています。幅広い事業ポートフォリオを持っていることで、コロナ禍で世界経済に凹凸ができ、航空機や自動車向けの部品の需要が落ち込んでも、家電やゲーム機など巣ごもり消費関連でカバーして余りあるものがありました。私は経営の本質は「サステナビリティーだ」という信念を持っています。それを実現するうえで8本槍をそろえていたことが奏功したと思います。

 もう一つは社内の一体感です。コロナ禍前は世界各地の幹部らを集めて会議をやっていましたが、それができなくなりました。ウェブ会議に切り替えたわけですが、その会議には3600人が集まります。経営トップが話した内容はその場にいた70%しか伝わらず、その下だとさらに70%にしか伝わらないといわれますが、ウェブ会議だと「社長はこんなことで怒っているのか」「こんなふうにしたかったのか」と多くの社員に臨場感を持って伝わります。これによってベストプラクティスを横展開し、(社内の知恵やノウハウを共有して進化させる)ナレッジマネジメントにつなげられました。これは大きな成果だったと思います。

社長就任後、13年間で23件のM&A(合併・買収)を実行し、連結売上高を約5倍に伸ばしました。「選択と集中はリスク」というお考えのようですが、どういった会社を目指しているのでしょうか。

 うちは部品業界のユニクロさん(ファーストリテイリング)のような存在と思っています。ユニクロはフリースから下着、パンツ、靴下にいたるまで自前でつくっています。それぞれ専門の会社が手掛けるようなものも、ユニクロに行けば安くて高品質なものがすべてそろう。しかも都会的でおしゃれです。魚や肉、野菜など食生活のすべてを支えているスーパーマーケットもユニクロと同じです。その意味で、われわれは“スーパー部品屋”なのです。

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