100年以上の歴史を誇る元祖「米国ITの雄」、IBMが大胆な会社分割に踏み切った。クラウドとAI(人工知能)に専念するが、すでに強豪のいる市場で勝ち残れるのか。分割を主導した本人に真意を聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

PROFILE

アービンド・クリシュナ[Arvind Krishna] 氏
1962年、インド生まれ。85年に大学を卒業後、渡米しイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で電気工学の博士号を取得。90年IBMに入社。2009年まで同社のトーマス・J・ワトソン・リサーチ・センターで研究開発に従事。リサーチ部門のシニアバイスプレジデントなどを経て20年4月に最高経営責任者(CEO)就任。21年から会長兼務。19年に完了した米ソフト大手レッドハットの買収を主導。340億ドルを投じた買収はIBM史上最大規模となった。

2021年11月にITインフラ管理・システム運用事業の「Kyndryl(キンドリル)」を分社化し、クラウドとAI(人工知能)を主軸とする企業に変身を遂げました。改めて分割の理由と1年目の成果を教えてください。

 当社が長年にわたって成功を続けてこられたのは、常に「顧客の成功」に集中して取り組んできたからです。社内ではこれを「ハイバリュー」と呼び、顧客が最先端技術を使って変革を遂げるお手伝いをしてきました。

 1930年代にはパンチカードの機械を製造・販売し、60~70年代にはメインフレーム(大型汎用機)を提供して顧客の企業活動を効率化しました。現在はクラウドとAI、量子コンピューターを提供することで企業に変革をもたらそうとしています。こうした取り組みの中でIBMが常に重視してきたのが、変革に向けた洞察を顧客の立場になって考え、「顧客との信頼関係」を築くことでした。

 キンドリルの分社化には、このコンテキスト(文脈)が深く関係しています。顧客の革新と発展に今やクラウドとAIは欠かせません。でも開発は簡単ではない。

 質の高いイノベーションで高い成長率を顧客に勝ち取ってもらうためには、当社の持てる資産をすべてクラウドとAIに投入する必要がありました。そこで、その他の事業を切り離し、自助努力で成長してもらおうと考えたのです。

分割で成長をアンロック

切り離したのは当時、売上高全体の4分の1を占めていた事業です。迷いはなかったのでしょうか。

 決断はとても難しいものでした。キンドリルは、どこかから買ってきてすぐに売却してしまうような「手ごろな資産」ではありません。社内で生まれ育ち、数多くの社員がそこを通じて成長してきた愛着ある事業で、おいそれと切り離せるようなものではありませんでした。