監査から各種の助言機能まで手掛けるPwCグループを2016年から率いる。デジタルなど新領域に対応するため、世界で大規模な人材採用と再教育を進める。事業環境の急激な変化は「日本企業にもチャンス」と説く。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)
PROFILE

ボブ・モリッツ[Bob Moritz] 氏
1963年米国生まれ。85年プライスウォーターハウス入社。95年パートナーに就任。ニューヨーク地域のマネージングパートナーを経て、2009年PwC米国の会長兼シニアパートナーに。16年から現職。ニューヨーク州立大学オスウィーゴ校卒業。米国公認会計士。入所以来一貫してアシュアランス分野(監査分野)でキャリアを積んできた。1990年代には3年間日本に駐在して欧米系金融サービス企業に監査およびアドバイザリーサービスを提供。

新型コロナウイルスの流行やウクライナ戦争など、世界的に不確実性が高まっています。今、企業はどのような課題に直面しているのでしょうか。

 主に4つあります。まず、広範なインフレ加速と金利の上昇、これに伴う潜在的な成長の減速と景気後退のリスクです。

 次にサプライチェーンがあります。大部分は(ロシアによるウクライナ)侵攻によるもので、エネルギー価格に関連します。今後は食糧が大きな問題になるでしょうし、関連する様々な課題も生じます。そのなかで特に重要なのは人的資源に関わるもの。つまり「事業遂行にふさわしいスキルを持つ人材を、適切な時と場所に配置できているか」です。サプライチェーンというと通常は人的資源とは別ものですが、私は広義のサプライチェーンに含めたほうがいいと思います。

 ロシアによるウクライナ侵攻を過小評価するつもりはありませんが、これは原因の一つにすぎません。多くのクライアントが直面する課題はサプライチェーンです。

 3つ目は広い意味での「ディスラプション(創造的破壊)」です。これはテクノロジーに限りません。人的資源やアクティビズム(株主からの圧力)の分野でも起きています。従業員の発言力は一段と強まっていますし、アクティビスト投資家の声も強まっています。これらに対応するためのコストは大きく、自社の優位性を維持する方法論を確立できていない企業もあります。気候変動や(格差や人口動態などの)社会問題などもディスラプションの一種で、企業経営にとって大きな不確実性になっています。

 最後が地政学的課題です。経営としてコントロールできない部分もありますが、何らかの対応は必要です。

 私たちPwCは、この4大テーマを1年半ほど前に確認し、クライアントや世界にとって何が必要かを見直しました。そこで新たに打ち出したのが、「The New Equation(新たな方程式)」として掲げる大きな戦略の方向性です。「信頼・トラスト」と「持続的な成長」という2つの柱からなるものです。

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