少子高齢化が進み、伸びしろが少ない成熟市場だと目される日本で、成長型思考を貫く。日本法人を率いて7年、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の存在感を高めてきた。革新的な商品の投入で、「まだまだ成長できる」と断言する。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
PROFILE

スタニスラブ・ベセラ[Stanislav Vecera] 氏
1969年チェコスロバキア(現チェコ)生まれ。91年チェコスロバキアP&G営業本部に入社。米国、ハンガリー、シンガポール、ナイジェリア、南アフリカなどでの勤務を経て2015年9月から日本法人社長。東京五輪・パラリンピックでは、使用済みプラスチック容器で表彰台を作るプロジェクトを推し進めた。

社長就任から丸7年が経過しました。この期間に、日本市場におけるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のプレゼンス(存在感)は、どう変わったとお考えでしょうか。

 非常にダイナミックな7年間になったと思います。7年前、2015年に私が来日した時に、周囲の方々からこんな話を伺いました。「日本は既に成熟し尽くした市場である」「少子高齢化が進む市場において、さらなる成長を追求するのは無理である」と。

 しかし、私たちは課題が多いとされる日本市場においても、「成長を達成できる」というグロース・マインドセット(成長型思考)を持ち続けました。非常に成熟した市場でも、革新的な商品の導入によって、市場全体の拡大ができる。そして市場そのものが伸びる中で、P&Gも成長していこうという戦略です。

成熟市場でも、グロース・マインドセットを持ち続けてきた。 成長には「自分は何者であるか?」という問い掛けが大事。(写真=的野 弘路)
成熟市場でも、グロース・マインドセットを持ち続けてきた。 成長には「自分は何者であるか?」という問い掛けが大事。(写真=的野 弘路)

日本市場での成長戦略で、力を発揮したのはどのような商品でしたか。

 1つ例を挙げましょう。洗濯用洗剤市場です。

 私たちは14年、「ジェルボール」という新しい形の洗剤を発売しました。粉末洗剤でも、液体洗剤でもない。1回分の洗剤がフィルムにくるまって密封されているので、計量する必要がありません。ジェルボールの登場によって、洗濯に対する消費者の常識が変わりました。

 この商品は17年に進化しました。1粒に3つの異なる成分を閉じ込めた「ジェルボール3D」を新たに開発したのです。それぞれの成分の鮮度を保ちながら、洗う瞬間に混ざり合うことで、洗浄効果を最大限に発揮する仕組みです。

 21年には、4つの成分を閉じ込めた「ジェルボール4D」を発売しました。従来の3つの成分だと、衣類の中に深く染み付いた汚れを浮き上がらせて取り除くことができない課題があった。そこで新成分を加えて、4つの成分が入る構造にしたのです。

 このように、たゆまぬイノベーションを積み重ねることで、過去7年間で日本の洗濯用洗剤市場は20%伸長し、P&Gとしてはこの市場で40%成長を達成しました。カテゴリー全体の拡大をリードし、私たちのビジネスも大きく成長させることができました。

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