デジタル化の波と異業種からの攻勢は、歴史あるメガバンクグループにも変容を強く迫る。築いてきたビジネスを果敢にはみ出してこそ、確かな飛躍を手繰り寄せられる。「将来も銀行である必要はない」と言い切る成長戦略を聞いた。
(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

太田純[おおた・じゅん]氏
1958年生まれ。82年京都大学法学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。ストラクチャードファイナンス営業部長、投資銀行統括部長などを経て、2017年三井住友フィナンシャルグループ副社長、19年4月から現職。トランザクションビジネスやITイノベーションに明るい。「カラを、破ろう。」とスローガンを掲げ、従来の金融業務の枠にとらわれない新規事業を積極的に支援している。
三井住友フィナンシャルグループは12月に創立20年を迎えます。デフレが長く続き、成長が鈍化する日本経済をどう歩んできたのでしょうか。
合併したのは存亡の危機を乗り切るためでした。不良債権を処理し、公的資金をクリアにして経営の自由度を取り戻し、資本の脆弱性を克服してようやく将来的な成長を追い求められるようになるまで20年かかりました。昔と比べて、3メガバンクはビジネスのポートフォリオなどで方向性の違いが出てきました。アップル・トゥ・アップル(比較基準がそろっている状態)ではなくなりましたね。
デジタル戦略は「ない」
CDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)を務めた立場から、現在のデジタルトランスフォーメーション(DX)をどう見ていますか。
金融機能を果たすプレーヤーが変わってきていて、より利便性が高くて安いサービスや商品を提供し、お客様に満足いただければ生き残っていく。そのためにはデジタルが必要不可欠です。
よくデジタル戦略を聞かれるのですが、「ない」と答えています。デジタルがすべての戦略の基盤になると考えているからです。
異業種が金融機能を担い始め、プラットフォーマーや決済業者がライバルになっています。
金融のアンバンドリング(分解)、リバンドリング(再結合)が進む中で、自社サービスに組み込む形で金融機能を提供する企業が相次いで出てくるでしょう。金融機関はその後ろ側に回って、サービスやプラットフォームの付加価値を高めていくケースも出てくるのではないでしょうか。
3カ年の最終年度に入った中期経営計画には、中長期の経営ビジョンとして情報産業化やプラットフォーマー、ソリューションプロバイダーといった銀行らしくないフレーズが並びました。
金融にこだわる企業ではなくなったということですね。金融という機能は社会的に必要なので残りますが、そこにどんな価値を付けられるか、どのようなサービスや商品を提供できるか。中計は競争力を高めるために、単なる金融業から脱皮する方向性を示したものです。
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