ウクライナ危機などを受けてエネルギー業界が危機に直面している。燃料が高騰している上、供給力が足りておらず冬場の停電リスクを抱えている。有事が長びく恐れもある中で、日本が進むべき道を聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
PROFILE

池辺和弘[いけべ・かずひろ]氏
1958年、大分県生まれ。81年に東京大学法学部卒業後、九州電力入社。87年ワシントン大学留学。主に企画畑を歩む。執行役員、取締役兼常務執行役員などを経て2018年に10人抜きで社長に就任した。20年3月、電気事業連合会会長。東京電力、関西電力、中部電力以外の電力会社からの初の会長となった。

ロシアのプーチン大統領が6月、露極東の天然ガス事業「サハリン2」の運営を新会社に移管する大統領令に署名しました。ここから日本が輸入しているLNG(液化天然ガス)が途絶する懸念があります。

 サハリン2からの調達が止まると大問題です。ロシアがけんか腰なのだから、日本もLNGは要らないと突っぱねるべきだと言う人がいますが、そんなに単純な話ではありません。

 もちろん、私もウクライナに対しては非常にシンパシーを感じています。ただ、各国が置かれている状況は異なり、日本はエネルギー資源のほとんどを海外に依存しているのです。ロシアに経済制裁を科すことには賛成ですが、必ずしも米国などと同じ行動は取れないと考えます。

 日本がロシアから調達しているLNGの量は年間600万トンで、LNG輸入量全体の約1割に上ります。出力が100万kWのLNG火力発電所が1年間で使うLNGはおよそ100万トンですから、サハリン2から入らなくなるとLNG火力6基が稼働できなくなる計算です。

権益を手放すべきではない

LNGのスポット取引価格が上昇していて、サハリン2から輸入できなくなった分をスポット調達した場合には年間1兆円を超すコスト増になるともいわれています。

 日本の電力・ガス会社は燃料の大半を長期契約で購入しています。足りない場合などにスポット取引が利用されますが、価格は現在、非常に高くなっています。ですから、国も言っていることではありますが、サハリン2の権益を手放してはいけません。日本勢では三井物産と三菱商事が権益を持っています。

 同時に、この夏以上に電力需給が逼迫すると見込まれている冬に備えて、今から手を打っておくことが欠かせません。ロシアが本当に日本に打撃を与えようとするなら、冬になって突然、「LNGを供給しない」と言ってくる可能性はあります。