スイスに本拠を置く世界的な人材サービス会社、アデコグループを2015年から率いる。「仕事が社会をよりよくする」というパーパスに根差し、ウクライナ危機でも迅速に動いた。コロナ後の働き方に、管理職はどう向き合えばいいのかを聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

PROFILE

アラン・ドゥ アズ[Alain Dehaze] 氏
1963年、ベルギー生まれ。2009年にアデコグループに入社。北欧地域の責任者を経て11年からアデコ最大の拠点であるフランスの責任者を務めた。15年、CEOに就任。国際労働機関(ILO)のGlobal Commission on the Future of Workのメンバーや、ダボス会議を開く世界経済フォーラム(WEF)のProfessional Services Industry Communityガバナンス共同議長を務めるなど、国際的な機関や会議でも活躍する。(写真=的野 弘路)

アデコグループは、700万人を超えたといわれるウクライナ避難民の求職者と、企業を結びつける求人サイトを3月に立ち上げました。その経緯について教えてください。

 2月24日、この戦争が始まりました。この時点で、ポーランドでは約1600人のウクライナ人が我が社に派遣社員として登録し、働いていました。その家族や親戚を呼び寄せることができるよう、ウクライナからポーランドへの移動などの支援を始めました。

 その数週間後、ポーランドやルーマニアといった近隣諸国へ人が流れていく事態となり、対象をすべての顧客とそのスタッフに拡大しました。そして避難民の方々がお金を稼ぐため、人と交流するために、働きたいのではないかと考えてサイト設立に動きました。

 履歴書の作成や面接のためのオンライントレーニングを提供するほか、デジタル技術や語学力のスキルアップに役立つ情報なども掲載しています。現在、約5200人の避難民が登録し、約1600の企業が仕事のオファーを出しています。

アデコが立ち上げたウクライナ避難民向けの就労支援サイト
アデコが立ち上げたウクライナ避難民向けの就労支援サイト

ウクライナにはIT人材が多い

男性が国に残って戦っているため、ウクライナ避難民は子女や高齢者が多くなっています。どのような仕事がマッチングされているのでしょうか。

 おっしゃる通りです。求職者の8割は女性です。企業がオファーする仕事は、ソフトウエア開発などIT系が多くなっています。もともと、多くの欧州企業はコーディングなど開発系の仕事をウクライナに発注しており、ウクライナの人たちは、優れたIT人材が多いですからね。

 また、求職者には2つのタイプがあります。いずれウクライナに帰るが、それまで待っている場合と、避難先にとどまり、根差すために仕事が必要だという場合です。

今回の求人サイトの利用料は無償だそうですね。

 そうです。ウクライナの避難民やすべての企業がアクセスできるオープンなものとしました。今回は特別です。過去の事例では、ドイツで避難民の登録など事務的な作業、フランスでは避難民の仕事探しの支援をさせていただき、こちらは政府から助成金を得ました。

素晴らしい取り組みですね。

 ありがとうございます。過去、ウクライナだけではなく、様々な国の避難民の支援をしてきました。国際労働機関(ILO)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)といった国際組織とも連携しています。このような活動は、我々のDNAに根差していると言えます。

「アデコのDNA」とは、どういうものでしょうか。

 我が社のパーパスは、「Making the future work for everyone(全ての人のための未来に貢献する)」。ここで大事なのは、「everyone」という言葉です。まったくスキルがない人も、熟練のエンジニアも含みます。避難民や障害者である場合もあります。

 なぜなら、働くということは何千年も前から、人が社会に統合されるための最良の方法だと考えられているからです。仕事を通じて、様々な人と接点を持ち、居場所をつくるということです。

 そのため、(戦争によって働く場が失われる)このような状況を目の当たりにしたとき、私たちが行動することで、人々の未来をよりよいものにできるのではないかと考えました。

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