2017年の就任以降、マーケットの動きに左右されにくい収益基盤の確立に努めてきた。再生可能エネルギーなど、時代のニーズに即した新事業に進出、投資機会の創出につなげる。外部連携にも積極的で、自社の証券プラットフォームを開放する。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=竹井 俊晴)
(写真=竹井 俊晴)
PROFILE

中田誠司[なかた・せいじ]氏
1960年東京都生まれ。83年早稲田大学政治経済学部卒業後、大和証券入社。事業法人部を中心に約15年、法人部門に在籍する。当時は日本ではなじみのなかったTOB(株式公開買い付け)の実施や、当時DDI(現KDDI)会長だった稲盛和夫氏を説得して大型公募増資を成功させるなど、業界の慣例を打ち破る企業ファイナンスやM&A(買収・合併)を成し遂げてきた。2007年大和証券グループ本社執行役。16年副社長を経て17年から現職。

今日はスーツではなく、ジーンズにジャケットとカジュアルな装いです。

 昨年から毎月第3金曜日に「ジーンズデー」を設けています。ジーンズをはいて出社し、寄付活動をするのですが、もとは遺伝子を指す「gene」と「jeans」が同じ発音であることにひっかけ、遺伝子の病気を持つ子どもたちを支援する欧米発の取り組みでした。弊社では寄付目的をコロナ禍の支援などに変えて取り入れています。

 コロナ禍で社員もストレスフルな生活を強いられています。全員参加型のちょっとしたイベントがあれば、ささやかな楽しみになるのではと考えました。ジーンズなんて持っていない中高年社員が張り切ってジーンズを買いに行ったり、女性社員も「今日は何を着ていこうか」とうきうきしたりしていると聞いています。私も5本のジーンズを持っていて、どうコーディネートしようか、毎月一生懸命考えています。

以前から社会課題の解決を金融で下支えする取り組みに力を入れてきたといいます。

 今でこそESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)の重要性が叫ばれていますが、大和証券では10年以上前から調達資金を難病で苦しむ人のワクチン購入に充てる、国内初の個人向けワクチン債を引き受け・販売しています。早い段階からサステナブルファイナンスに取り組んできた自負があります。

 今後も市場は拡大していくでしょう。とりわけ企業のカーボンニュートラル達成を支援する、グリーンボンド、サステナビリティーボンドは、多くの金融機関が扱うようになりました。

再生エネ、中長期で3000億円

 同じことをしていては意味がないので、さらに先を行く取り組みを強化しています。

 2018年に設立した大和エナジー・インフラはその代表例です。メガソーラー(大規模太陽光発電所)など再生可能エネルギーへの投融資を手掛ける会社で、ノウハウ蓄積や配当・売却収益の獲得を目指します。複数の案件をファンドとして1つにまとめ、年金基金や生命保険会社といった機関投資家に販売するようなこともしています。

 再生エネに投資したいと思っていても、案件の将来性を見極める知見がないため手を出せない投資家が多い。そういう人たちの間に入り、投資機会を提供することは、新たな資金循環の確立につながります。足元の投資残高は約1360億円ですが、中長期で3000億円に増やしたいところです。将来的には個人投資家にも提供し、資産形成の選択肢の一つにしてもらいたいですね。

 再生エネへの投融資は、大和証券グループが掲げる成長戦略「ハイブリッド戦略」の一つでもあります。個人の資産形成や企業の資金調達を支援する伝統的な証券ビジネスだけでは市場環境に左右されやすい。そのため、不動産やインフラといった新領域に進出し、安定した収益基盤の確立を目指しています。

大手証券はリテール分野でネット証券にシェアを奪われる状態が続いています。どう対応していますか。

 ネット証券の利用者は20~40代が中心です。一方で日本の金融資産約2000兆円のうち、約6割を60歳以上の高齢者が保有しています。一番お金を持っている60代、70代の層に対するコンサルティング業務をしっかりやっていく。ここが我々の主戦場だと考えています。社長に就任した17年以降、資産を持つ層に対して効率的にアプローチできる営業体制にする改革を進めてきました。

店舗増でもコストは削減

営業所と呼ばれる小型店舗(神奈川・向ケ丘遊園の営業所)(写真=陶山 勉)
営業所と呼ばれる小型店舗(神奈川・向ケ丘遊園の営業所)(写真=陶山 勉)

 駅前の一等地にある大型支店の統廃合を進めるとともに、営業所と呼ばれるバックオフィスを持たない低コストで小規模な営業拠点を増やしています。現在の店舗数は約180と、4年前より30くらい増えていますね。

 営業所はビルの空中階にある所が多く、5~6人が働く事務スペースと、応接室が2つ3つあるだけ。全国の支店で請け負っていた営業支援や事務といったミドルオフィス、バックオフィス業務は東京の場合、3カ所に集約しました。

 店舗数を増やすといっても、これまで支店で働いていた職員を切り分けるだけですから、人件費は増えません。大型支店の不動産賃借料やシステムなどの経費が削減されましたので、かえってコストが抑えられるようになりました。効率化を進めた結果、19年から累計で約25億円のコスト削減につながっています。