新型コロナウイルス禍によって、定期券収入が首都圏の大手私鉄で最も大きく落ち込んだ。安全投資への費用がかさんでいることもあって、今回値上げに踏み切った。今年は設立100周年を迎える。激変の時代をどう進むのか、戦略を聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=古立 康三)
(写真=古立 康三)
PROFILE

髙橋和夫[たかはし・かずお]氏
1957年新潟県生まれ。80年一橋大学卒業後、東京急行電鉄(現・東急)に入社。鉄道事業の現場を経験した後、バス事業に配属され、分社化の業務を担当。91年の東急バス発足後も長年にわたり同社に出向した。2011年に本社取締役となり、経営企画を担当。新規事業として空港運営を受託するコンセッション事業を担当し、国の空港コンセッションの第1号案件だった仙台空港の運営権を取得した。18年4月から現職。

2023年春の運賃引き上げを国土交通省に申請しました。コロナ禍を背景として運賃変更を申請したのは、JRと大手私鉄の中では東急電鉄が初めてです。影響が相当深刻だったということでしょうか。

 長引くコロナ禍によって鉄道、小売り、ホテルなどそれぞれの事業がかなり傷みました。どうやって(コロナ禍前の状況に)戻していくか。それぞれの道筋をつけて21年度に入ったのですが、夏ごろから人出が増えてくると思ったら(感染の再拡大で)逆に同年8月が一番影響が大きかった。そこのギャップがなかなか容易ではなかったのが率直なところです。

 秋以降も行動が慎重になっていて、爆発的に戻っている感じはない。鉄道の利用客数はコロナ禍前の75%くらいで推移してしまっています。

定期券の収入に大打撃

定期券の収入は21年に入っても3割減が続きました。落ち込みが首都圏の私鉄で最も大きかったと聞きます。

 そうですね。沿線にお客様がいなくなったわけではなく、通勤スタイルというか、働き方が変わった。そして住んでいる人々の考え方、大げさに言えば価値観が変わっています。

 働き方に3つくらいのパターンができたと考えています。1つ目は在宅勤務や、家から出ても電車に乗らずに近所の施設でテレワークをするスタイル。2つ目は電車には乗るけれども都心へは行かずに、東急沿線でいえば二子玉川(世田谷区)やたまプラーザ(横浜市青葉区)などでテレワークするスタイル。そして3つ目は従来通り都心まで通勤するスタイルです。

 在宅勤務の人が週に2~3日外出するくらいなら定期券は必要ないですよね。定期券以外の収入はコロナ禍の前の9割くらいまで戻っているのですが、それはこれまで定期券を買っていた人が、定期以外にシフトしているということでもあります。