この記事は日経ビジネス電子版に『ジム・コリンズが語る、「ニューノーマル」など到来しない」』など2021年12月1日~22日に配信した記事4本を再編集し、雑誌『日経ビジネス』1月17日号に掲載するものです。
永続する企業の条件を探った『ビジョナリー・カンパニー』の著者として世界的に知られている。新型コロナウイルス禍の危機を経た今、時代にどう向き合うべきなのか。研究をひもとき、優れた企業、経営者になる条件について語ってもらった。
(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

ジム・コリンズ[James C. Collins]氏
米経営学者
1958年生まれ。米スタンフォード大学経営大学院卒業。日本で95年に発刊した『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(ジェリー・ポラス氏との共著)をはじめとする『ビジョナリー・カンパニー』シリーズは世界で1000万部を超えるロングセラーとなった。米コロラド州ボールダーの研究ラボを拠点に四半世紀以上にわたって企業を研究、経営者から支持を集めている。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は世の中をどう変えたのでしょうか。
「歴史とはサプライズの研究である」というのは歴史学者エドワード・T・オドーネルの言葉です。私たちの生きる世界の本質をよく捉えており、今回のパンデミックは改めてそれを痛感させる出来事でした。
10年前は世界金融危機、20年前は世界同時多発テロを経験したように、破壊的サプライズが起こるというのが歴史の基本パターンです。今後も「ニューノーマル(新常態)」など到来しません。生きている限り、不安定と想定外のショックの中を生き延びなければならない。それをパンデミックは経営者に思い知らせたといえるでしょう。
経営者はパラノイアであれ
今回の危機から経営者は何を学ぶべきでしょうか。
経営者に求められているのは建設的パラノイア(極度の心配性)の実践です。事業環境が突然、劇的に変化し得ることを想定し「こんなことが起きたら?」「あんなことが起きたら?」と問い続ける姿勢が必要です。
あらゆる企業に衰退のリスクがあり、実際多くの企業がいずれ衰退します。偉大な会社を築く起業家は、良い時期も悪い時期もとことん警戒を怠りません。
永続する組織をつくる最初のステップは「死なないこと」です。常に十分な資金的バッファーを持つことが重要です。リスクを抑え、経営の規律を高めることで、破壊的変化が起きたときに強く柔軟な状態で対処できます。危機の歴史をひもとくと、危機の前から規律ある経営で強靭(きょうじん)であった企業と、規律に欠け、脆弱だった企業との差が大きく広がることが分かる。同じパターンが今回の危機でも見られます。
コリンズ氏は「キツネはたくさんのことを知っているが、ハリネズミは大切なことを1つだけ知っている」という寓話(ぐうわ)に基づき、「ハリネズミの法則」として得意事業に専念すべきだと説いています。ただ、今回の危機ではリスク管理の点で多角化の必要性が指摘されました。
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