2021年度、7年ぶりの純利益1兆円を目指す三菱UFJフィナンシャル・グループの中核銀行。国内最大であるが最強ではないともいわれる同行が、デジタル化を追い風に、飛躍を目指す。テレビドラマの主人公と同じ名字で注目された新頭取が見る未来は。
(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

半沢淳一[はんざわ・じゅんいち]氏
1965年埼玉県生まれ。88年東京大学経済学部卒。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。企画管理・営業など銀行の主要業務に関わり、グループの統合企画室次長としてUFJグループとの経営統合などに従事。経営企画部長、名古屋営業本部長、取締役常務執行役員CCOを経て、2021年4月から現職。座右の銘は「一念天に通ず」。スポーツ観戦、ウオーキングが趣味。
テレビドラマ「半沢直樹」の主人公と同じ名字の頭取誕生は注目を集めました。ドラマでは弱きを助け強きをくじく一方で、取引先と信頼関係を構築していくバンカーの姿が描かれていました。半沢さんも以前、下町の中小企業の営業を担当されていたと聞いています。ドラマは見ていたのでしょうか。
見ていました。家族4人で食事をしているとき、「半沢直樹」が始まると出た瞬間、ひっくり返りました。銀行が舞台なので「嫌な予感するよね」と家族は言っていました(笑)。
「半沢直樹」次長は、顧客と真摯に向き合い顧客のために行動しているふうに描かれていますので、楽しく見ていました。これが悪い役でしたら私も色々と言われたでしょう(笑)。
私も、顧客のニーズや思いをしっかり受け止めた上で、それにどう応えられるか一生懸命考えることをポリシーにしていました。ドラマほど格好良くないですが。
原作の作家・池井戸潤さんと同期入行とのことですが、交流があるのですか。
最後に会ったのは旧三菱銀行での新人研修ですが、グループは別でした。3週間ほどの研修で同じグループだった記憶がありますが、そのときに一言、二言、話したぐらいではないかと思います。それ以来三十数年、一度もお会いしていないんです。
顧客の経営課題に寄り添う
2021年4月、コロナ禍で13人抜きでの就任でしたが、取引先からどのような期待や要望がありましたか。
足元の新型コロナウイルスへの対応やデジタル化、気候変動対応をどう加速させていくか、いろいろな働き方にどう対応するかなどの声がありました。これだけ速い環境変化にどのように対応していくかというのが一番のテーマでした。
特に昨年4~6月は感染が拡大し、我々を含む企業活動が非常に制限され、業績的にも厳しくなりました。デジタル化、リモート化への新たな需要が出てくる製造業は回復が早かった一方、飲食、宿泊、旅客、運送などの対面型サービス業は苦しい状況になりました。
感染拡大が少し収まりつつある中、サービス業については業績回復が期待される一方、製造業は半導体の調達、原材料高騰などの供給網の問題が残っています。
我々としては一律に支援するというよりは、個別に対応したいと思っています。各社の経営課題に寄り添う形でファイナンス面の支援をすると同時に、どのような解決策を提案できるかが求められています。
銀行の底力が試されているということでしょうか。
おっしゃる通りです。これまで売り上げが急減した顧客に対してまず資金を供給することが重要でしたが、今後はコロナ禍からの回復とデジタルや気候変動、グリーン化への対応を踏まえた形で経営課題へのソリューションを提案できるかということがまさに求められています。
他行と比較して、強みと弱みは何でしょうか。まず強みは。
一つはグローバルなネットワークです。特にアジアではタイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムの4行をグループ会社にしています。
アジアの成長を取り込むという意味でも大きいですし、取引先がアジアに展開する際、我々の強みになります。特にタイのクルンシィ(アユタヤ銀行)は、商業銀行業務を強化することによって、買収時に国内で上位5番目だったのが、昨年は当期利益で3番になりました。
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