AI(人工知能)研究の第一人者であり、日本に技術を普及させる役割を担う。研究室では学生たちに起業を勧め、実際に数々のスタートアップが生まれた。ITビジネスのゆがみが、起業にチャンスをもたらすと語る。
(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

松尾 豊[まつお・ゆたか]氏
1997年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、07年に東大大学院工学系研究科准教授。19年、教授に就任した。専門分野は人工知能、深層学習、ウェブマイニング。17年から日本ディープラーニング協会理事長。19年、ソフトバンクグループ社外取締役。20年、人工知能学会理事。
AIの分野では人材の不足が指摘され、2030年には12万人が足りなくなるとの試算もあります。
人材はだいぶん増えてきたのではないでしょうか。大学でAIを学べる機会が多くなっていますし、AI技術を提供する企業も増えています。17年に発足した日本ディープラーニング(深層学習)協会が行う資格試験では、受験者が6万人を超え、合格者は4万人ほどになりました。
社員が新たなスキルを身につける「リスキリング」を企業が重視し始め、海外では10万人レベルで再教育に取り組む例もあります。
いいことだと思います。エンジニア以外の方がプログラムを書いたり、AIでデータを分析したりということはぜひ、やったほうがいいですね。
他方で、先ほど述べましたがAIをソリューションとして提供するスタートアップなどの企業も増えています。技術だけであれば、そんなに不足はしていなくて、かなり使えるようになってきたとみています。
企業の課題は、どちらかというと人材不足よりも、事業とAIをどう組み合わせていくのか、あるいはAIで事業をどう拡大させるのかといったことのほうではないでしょうか。AIで今までにできなかったことを実現させ、新たな収益を生み出す。そこが難しさのポイントでしょう。
多くの経営者が、事業にAIをどう活用したらいいか悩んでいる状況なのでしょうか。
そうかもしれないですね。かつてインターネットが登場したときも、これを使ってどんな新しい事業を立ち上げ、どうやってもうけるのかが大きな課題でした。
例えば証券業界でネット事業にいち早く取り組んだ会社もありましたが、そうでない会社もあったわけです。ほかの産業でも同じ構図でした。新しい技術をどうビジネスに生かすのかというのは昔から難しいことで、AIについてもそうなのです。
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