農業機械と水道を両輪に発展してきた創業130年の巨大企業を率いる。目指すのは水や環境、食料にまつわる社会課題の解決を提案するプラットフォーマー。単なる機械や水道管の販売からのビジネス転換にギアを入れる。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=菅野 勝男)
(写真=菅野 勝男)
PROFILE

北尾 裕一[きたお・ゆういち]氏
1956年兵庫県生まれ。79年東京大学工学部卒、久保田鉄工(現クボタ)に入社。一貫してトラクターの開発畑を歩み、2014年6月に取締役常務執行役員。取締役専務執行役員を経て19年に副社長に昇格し、機械事業本部長も兼ねる。同年6月イノベーションセンター所長。クボタにとって創業130周年の節目となった20年1月から現職。「六甲山と大阪湾が目に入らないと、どうも落ち着かない」と話す、根っからの関西人。

成熟した国内市場における再成長のカギを握るのがスマート農業システムです。自動車でいう「CASE(つながる、自動運転、シェアリング、電動化)」のようなことが農機でも起きていると思いますが、ビジネスのあり方はどのように変わっていきますか。

 2013年に農業機械総合事業部長に就いたころから、これからは単にトラクターの販売と修理をやっていたのでは生き残れないと考えるようになりました。我々の顧客である農家の困り事は、入り口から出口までクボタが全部面倒を見られるようにしよう。ビジネス転換を呼びかける中で、農業を「見える化」して収量や品質の向上につなげるクボタスマートアグリシステム(KSAS)などを世に送り出してきました。

 農家は高齢化して後継者不足も深刻です。農業のノウハウは失われつつあります。農家の皆さんの頭の中にあるノウハウをデータで見える化して、就農のハードルを下げる。農業経験のないパートが大規模法人で働いても、簡単にトラクターを運転できて、肥料をどれだけまいたらいいのかもわかる。こういった新しい農業のやり方を提案しています。

日本では農家の高齢化や農村の過疎化が深刻です。

 農村をどう守っていくのかというのは大きな課題です。過疎化がどんどん進み、地方自治体も集約しないと生き残れなくなるでしょう。そうした中で、農業だけではなくて、水、環境の事業もやっているクボタだからこそ果たせる役割があると考えています。

社会課題の解決策を提案

 水道インフラの効率的な運営や、災害に備えた強靱(きょうじん)化。例えば、水田で流量を調整する「田んぼダム」と呼ぶ取り組みも進めています。地方自治体の困り事を全部見渡して、仕事ができるのではないかという思いが強くあります。

 脱炭素や再生可能エネルギー普及の要請にも応えられると考えています。下水や汚泥の処理も手がけていますが、農家が扱いに頭を悩ませている農業残さ物や家畜のふん尿を集めてメタン発酵させれば、熱や電気を生み出せます。

 私は「スマートビレッジ構想」と言っていますが、食料、水、環境というクボタの3つの事業が一体となって、社会課題を解決するような形になれば理想的です。単なるトラクターや鉄管の販売ではなく、社会課題への解決策を提案していくのが今後の我々の姿だと考えています。

トヨタ自動車の「ウーブン・シティ」をほうふつとさせますね。

 そうですね。全国でスマートシティーの試みが進んでいて、私も福島県会津若松市に実際に足を運びましたが、対象は教育や医療にとどまっている印象です。上下水道のインフラについては、我々がしっかり考えて、後からスマートシティーに合体させればいいのではないかと思っています。少し時間はかかると思いますが、これはぜひやりたい。

 日本全国に埋設されている上下水道の鉄管のうち60%がクボタの製品で、位置情報はもちろん、埋まっている土壌の性質まで分かっていますから。

具体的な町や村を丸ごと使って実証実験するのでしょうか。

 まだそこまでは行っていませんが、どこか実証実験できる場をつくりたいと考えています。農業だけの取り組みにはなりますが、実証の場である「クボタファーム」を全国13カ所につくっているので、そこに汚泥や農業残さ物の処理、メタンガス発酵なんかを組み合わせていくやり方はあるかもしれません。

続きを読む 2/4 脱炭素へ農業を変える

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