ローソン会長からサントリーHDのトップに転身し、日本の産業界を驚かせてから7年。買収したバーボンの名門、米ビームの統合作業を終え、視線は中印という巨大市場に向く。同族企業の経営にネアカで挑んだプロ経営者が目指すものとは。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)
PROFILE

新浪 剛史[にいなみ・たけし]氏
1959年神奈川県生まれ。81年、三菱商事に入社。91年、米ハーバード大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。2002年ローソン社長CEO(最高経営責任者)。14年5月に会長に退き、10月にサントリーHDの創業家出身者以外で初となる5代目社長に就任。18年5月から日本経済団体連合会審議員会副議長、20年6月から経済同友会副代表幹事、21年7月から米日カウンシル評議員会副会長を務める。

4度目の緊急事態宣言を巡る政府や自治体の対応をどう評価していますか。

 お酒をビジネスとしているメーカーとして、頑張っていて、きちんと安全対策をしている飲食店が多くあるのに、一律に全てダメと決めたのは大変遺憾です。お客様の「お酒を飲みたい」という気持ちは沸々としているので、科学的な安全対策を取っている飲食店であれば酒類を提供できる仕組みが必要でした。正直者がばかを見ないよう、安全対策なしに営業した店には罰則を適用するような、白黒のはっきりした取り組みをしてもらいたかった。

 例えば、新宿・歌舞伎町で行われた実証実験のように、飲食店に入る前に抗原検査をするといった仕組みづくりで、一定の安全性が確認できれば楽しくお酒を飲める方法もあるはずです。とりわけ自治体は経営の厳しいお店が営業できるよう工夫してもらいたいです。

コロナ禍は長期化しています。企業経営では経営者の多くが自社の社会的な存在意義を示すパーパス経営を口にするようになりました。

 企業の志を見直して再定義するのは賛成です。「Who are we?」を明らかにして社内の隅々まで伝える必要はあります。でも企業はそもそもパーパス無しに存在できないでしょう。今更の議論だと感じますし、経営者が右向け右でパーパス経営を掲げるのはナンセンスではないですか。今、言い出している会社があるとしたら大変でしょう。これから海外にどんどん出ていかなきゃいけないのに、私たちは何者ですと言えない会社が活躍できるわけがない。

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