磁気テープから磁気ヘッド、電池へと事業を転換できた理由に風通しの良い社風を挙げる。DX(デジタル変革)とEX(エネルギー変革)を軸にセンサーといった次の領域にめどがついた。M&Aを重ね従業員の9割が外国人。挑戦する文化を浸透できるか。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)
PROFILE

石黒 成直[いしぐろ・しげなお]氏
1957年東京都生まれ。北海道大学理学部中退後、82年東京電気化学工業(現TDK)入社。2002年レコーディングメディア&ソリューションズビジネスグループ欧州営業部経営企画担当部長、14年執行役員、15年常務執行役員磁気ヘッド&センサビジネスカンパニーCEO。欧州などでの駐在期間が長く、海外市場を肌で知る。16年から現職。

新型コロナウイルスの感染拡大で景気が後退する中、今期は2期連続の増収増益を見込んでいます。

 2021年3月期は丸1年、コロナ禍の特殊な環境が続きましたが、生活や仕事、教育など多くの面でデジタル技術の導入が進みました。パンデミックが20年前に起きていたらどうなっていたでしょうか。インターネットがようやく家庭に普及し始めたタイミングです。何もできなかったでしょう。少なくとも世界中のメンバーの顔を見ながらリモート会議はできなかったし、生活面ではアマゾンもウーバーイーツも、もちろんスマートフォンもありません。

 コロナ禍を受けて進んだ一連のデジタル技術の導入は、TDKの業績にプラスに働きました。1年前のロックダウン中はモノが作れない時期もありましたが、それを乗り越えた後の受注は好調です。最初に受注が戻ったのがスマホ向けで、パソコンやタブレット向けもリモートワーク特需が後押ししてくれました。クルマ向けが最後に戻ってきましたが、ガソリン車ではなく、HV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)など次世代技術の引き合いが強い。

需要に持続性はありますか。

 今年5月末に新たな中期経営計画を発表しました。中核に据えたのはEX(エネルギー変革)とDX(デジタル変革)です。最近よく聞く言葉ですが、私は2~3年前から言い続けてきました。

 EXとDXはエレクトロニクス技術抜きでは語れません。現在の動きをみると一時的なブームとは考えにくい。2つの領域でいかに社会の役に立てるかを真剣に考えて先手を打つ必要があります。そういう意味で、またとない環境に身を置けています。

パウチ型には未来がある

主力のリチウムイオン2次電池事業で、車載電池大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)と中型電池での業務提携を発表しました。TDKの電池事業はスマホなど小型が中心ですが、中型にシフトする狙いは。

 我々は05年に香港のアンプレックステクノロジー(ATL)を買収して電池事業に参入しました。その後、スマホ市場が立ち上がり、ATLが手掛ける(形状の自由度がある)パウチ型のニーズが伸び、この10年で大きくビジネスを拡大しました。

 スマホ市場はまだまだ魅力的ですし、IoTの普及とともにあらゆる機器がモバイル化していきます。小型電池の軸足は確保しますが、それだけでは電池市場では小さな存在のままです。かといって今さら車載電池への参入は難しい。ちょうど中間にある電動バイクや自転車、キックスケーター、家庭用の蓄電池などを開拓していきます。

 再生エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が順次終了していきます。家庭用蓄電池を使う「自家消費」が世界的に増えるほか、分散電源で需給を調整する「仮想発電所(VPP)」のニーズも高まるでしょう。こうした市場を開拓するのが電池の拡大戦略の軸になります。中型でもパウチ型の技術が生きるとみています。

成長領域に掲げるセンサー事業で、電池の次の成長を担うのはいつごろになりそうですか。

 電池に取って代わるかは分かりませんが、柱は何本でも欲しい。1本の柱で経営をつないでいくのはリスクがありますから。前期のセンサー事業の売上高は800億円程度ですが、最低でも2000億円規模には増やしたい。

 実は一世を風靡したテープも、ピークの売上高は年間で2000億円弱でした。次の柱となったハードディスク駆動装置向け磁気ヘッドはやすやすと2000億円を超えましたが、3000億円には達しませんでした。

 ところが電池は簡単に3000億円を超えました。逆に言うと、センサーの売上高が2000億円規模になれば、TDKの歴史から見ても1つの柱になったといえる。現在、(コイルやコンデンサーなどの)受動部品の売上高が年間約4000億円です。3~4年でセンサーの規模をその半分ぐらいにはしたい。

続きを読む 2/3 合言葉は「しがみつけば倒れる」

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2443文字 / 全文4698文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「インタビュー」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。