海外企業の買収を通じたリスク分散戦略を徹底することで、強い経営基盤を築いてきた。買収企業の選定では、経営の価値観が同じベクトルを向いている点を何よりも重視する。今後、保険は「前」と「後」を一体提供するサービスに変わると説く。
(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

小宮 暁[こみや・さとる]氏
1960年神奈川県生まれ。83年東京大学工学部卒。同年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。2015年東京海上ホールディングス執行役員経営企画部長、16年常務執行役員、18年専務執行役員。主に海外事業を担当する。19年6月から現職。
過去12年間で2兆円超を海外企業のM&A(合併・買収)に投じ、今や収入の5割弱を海外が占めています。グローバル化を急ぐ理由は何でしょうか。
東京海上グループが買収を通じた非日系事業の拡大を本格的に経営戦略に据えたのは2007年からです。以来、08年の英キルン、米フィラデルフィアと、欧米企業の大型買収が続きました。最近では19年に発表した米ピュアグループが大きな案件として挙げられます。
買収で売り上げや事業規模の拡大だけを追求しているのではありません。自然災害大国である日本において、お客様と保険契約を通じて交わした「約束」を何があっても守るためには、強い経営基盤が必要です。災害など、突発的に発現する大きなリスクを軽減するためには、事業の地理的分散が必要不可欠。海外ビジネスはそのためにもなくてはならないものです。

国内の損保事業と相関の低い保険種目を組み合わせることで、リスクを抑える狙いもあります。例えば15年に買収した米保険大手のHCCインシュアランス・ホールディングスは、企業向け再保険や会社役員賠償責任保険、農業保険というように、専門性の高いスペシャリティー保険に強い会社です。こうした多様な保険種目を持つ企業と一緒になることは、新たな収益源を取り込むことにもつながります。
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