自社の種から売上高6000億円の可能性がある抗がん剤を送り出し、成長の道筋が整った。新型コロナウイルス感染症では、ワクチンを独自に開発する数少ない日本企業の一社だ。世間の高い評価をはかないものと受け止め、視線はさらに先を向く。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=小林 淳)
PROFILE

眞鍋 淳[まなべ・すなお]氏
1954年香川県生まれ。77年東京大学農学部卒業、78年三共入社。2009年執行役員研究開発本部プロジェクト推進部長、14年常務執行役員日本カンパニープレジデント兼事業推進本部長、同年取締役に。16年代表取締役副社長執行役員、17年4月代表取締役社長兼COO(最高執行責任者)、19年6月から代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)。研究部門出身で、新薬開発の難しさを知る。

新型コロナウイルス感染症のワクチンを手掛ける数少ない日本企業の一つです。今の開発状況を教えてください。

 2つのワクチンを扱っています。一つは英アストラゼネカのワクチン。原液の供給を受け、第一三共で容器に入れて製剤化しています。

アストラゼネカのワクチンでは国内での製剤化を担当する

 もう一つはメッセンジャー(m)RNAという、遺伝情報を基にした独自のワクチンです。米ファイザーや米モデルナと同じタイプです。設計が異なるので競争力はあると思っています。

 現在、第1/2相の臨床試験を行っていますが、最終の第3相を日本で実施するのは厳しい。発症率が1%ぐらいであれば、3万人で300人ぐらいが発症するので、ワクチンを接種した人としていない人の発症数を比較することで有効かどうかを判定できます。ですが日本は発症率が0.1%で、3万人いても30人ぐらいしか発症していない。3万人を対象に治験を行っても統計学的に有効だと証明するのが困難なのです。

 治験の対象はまだワクチンを打っていない人なので、接種が進むと、治験に参加できる人も少なくなってしまう。ワクチンを開発している日本企業は同じような苦労をしていると思います。大規模な治験をしなくてもいいと当局が言えば事情も変わるのですが。

 我々は2022年の実用化を目指すと言っています。承認を得るためにどのような治験を行うか、当局と相談しながら進めているところです。

特許放棄についての考え

あらためてお聞きしますが、なぜ日本の製薬企業はワクチン供給で欧米に遅れたのでしょうか。

 日本は副作用に対する抵抗感が強いですよね。訴訟で敗れた経験があり、国も及び腰です。米国などではバイオテロに備えるため、国家戦略として研究開発を支援してきました。米国には疾病対策センター(CDC)という、感染症を含む疾病対策の司令塔のような組織があり、そこが引っ張っています。

 日本には重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)が入ってこなかったのも大きい。あのときは東京大学と共同でmRNAワクチンの研究をしたのですが、感染症が収まったのでやめてしまいました。

ワクチン開発に成功してもパンデミックが収束すると事業の継続は難しい。

 その通りです。ワクチンだけでなく、感染症薬全般にいえることです。仮に抗菌薬で特効薬をつくっても、使いすぎると耐性菌ができて困るので、使用量を抑えながら使ってくれと(学会や当局から)言われます。そうなると販売量を増やせません。当社は昔は感染症薬を手掛けていましたが、そうした事情から撤退した経緯があります。

感染症薬は撤退しても、ワクチン事業は続けていくのですか。

 ワクチンは今、季節性インフルエンザ向けの製品を出しています。このビジネスは継続します。

 mRNAでは(かつての東大との取り組みなどで)先んじて研究をしてきたので、これも技術を確立し、世の中に貢献したい。次のパンデミックにも使えますから。

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