インターネット産業の黎明(れいめい)期に日本初のネット接続サービス会社を興した。30年近い経営を振り返ると、巨大IT企業と並ぶ技術力がありながら、差は大きく広がった。悔恨の思いも込め、すべての企業人に「地球儀を見よ」と訴える。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

PROFILE

鈴木 幸一[すずき・こういち]氏
1946年生まれ。71年早稲田大学文学部卒業、日本能率協会に入社。92年にインターネットイニシアティブ企画(現インターネットイニシアティブ)を設立して取締役となり、94年に社長就任。商用のネット接続サービスを始めるため郵政省(現総務省)と1年以上にわたって折衝、実現にこぎ着けた。2013年6月から現職。「東京・春・音楽祭」の実行委員長としてクラシック音楽の普及にも尽力する。(写真=的野 弘路)

1994年に日本で最初のインターネット接続サービスを始めました。インターネットは社会をどう変えたと見ていますか。

 グーテンベルク以来の技術革新、20世紀最後の巨大な技術革新ですからね。生活から政治、経済、産業に至るまであらゆる分野で仕組みごと変えてしまいますね。私も、いつの間にか半世紀以上も興味を持ち続け、興味どころか自分の人生そのものになってしまった。

 要は電話という通信から、コンピューターサイエンスを技術基盤とすることで、情報と通信が一体となった。かたい言葉で言えば、時間と空間の概念そのものまで変えてしまう、現在進行形の革命とでも言えばいいのかな。

情報をどう扱うべきか、改めて問われているように思います。

 新たな可能性を持つようになった「情報」をどう扱うか、難しい話ですね。ベトナム戦争世代の私としては、情報の発信者と受信者の関係をネットが根本的に変えるものだ、と飛びついた記憶があります。情報の発信者が権力者かマスメディア、普通の人々が受信者に終始するという構造が変われば、ベトナム戦争のようなことが起こらなくなるという幻想を持っていました。

幸せばかりとは言えない

 しかし、物事はそう簡単なものではない。中国とかロシアは今、あらゆる情報を国が究極的に集中、監視する技術としてネットを利用している。通信とデータの処理が高速になり、AI(人工知能)による分析や予測は深く、正確になっていきます。究極の監視・統制社会が可能となるかもしれない。

 技術的にはプライバシーを守れない方向を一生懸命、追求しているのです。日本をはじめ欧米諸国はプライバシーを守ろうとしていますが、残念ながら、守る動きのほうが弱いと思います。

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