かつての上司から聞いた「ザ・ラストマン」の教えを胸に、大赤字に陥った日立を復活させた。事実上国有化された東京電力ホールディングスの会長に招かれ、東電の再生にも挑んだ。2050年の「脱炭素」に向けて日本の社会や企業が進むべき道とは。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=的野 弘路)
PROFILE

川村隆[かわむら・たかし]氏
1939年生まれ。北海道札幌市出身。62年に東京大学工学部電気工学科を卒業し、日立製作所入社。電力畑を中心に歩み、常務を経て99年副社長。同年7月にハイジャック事件に遭遇し「ザ・ラストマン」を強く意識する。2003年以降は日立マクセルなどグループ会社の会長を歴任したが、09年に本体に呼び戻されて会長兼社長に就任。再生にめどが立った翌10年に社長退任。17年から3年間、東京電力ホールディングス会長を務めた。趣味は読書、スキー。

政府が2050年の「カーボンニュートラル」実現の目標を掲げました。エネルギー分野とのかかわりが深い川村さんはどのように見ていますか。

 カーボンニュートラルを目指そうという菅義偉首相の決断は高く評価しています。あれは社会を根本から変えるような取り組みですから。

 例えば製鉄だって今のような作り方ができなくなります。コークスと反応させて酸化鉄から酸素を取り除くというやり方を続ける限り、コークスから大量に発生する二酸化炭素(CO2)を減らせない。製鉄業が生まれた産業革命のときからのやり方が、根本からひっくり返るわけです。もし水素還元製鉄に切り替えるのだとしたら、世界の製鉄会社が今の設備を捨てて新しい設備に大きく転換しなければならない。

 あらゆる産業の設備が「座礁資産」になってしまうんです。製鉄業もそうだし、石炭火力発電もそう。化学の会社は今までのように石油からプラスチックを作ることが許されなくなるかもしれない。もちろん石油会社も大変なことになります。会社全体がひっくり返るような話ばかりなんです。

日本は戦後、「鉄は国家なり」ということで国を挙げて鉄の生産を軌道に乗せました。今回はそれに近いことをやらなければならないほどのインパクトだと思います。

 そう、これは大変なことなんです。一部の人は「電力の作り方の問題であって、石炭火力をやめて再生可能エネルギーにすればいい」と思っているようですが、そんなものじゃない。

 プラスチックにしても、石油を精製した原料から作るのではなく、人工光合成で作るといった話になる。人工光合成は100年ほど前から科学者が努力してきたけれども、いまだにうまくいっていません。効果が高い触媒を使えばできるようにはなったんだけど、まだ工業的な段階にまでは至っていない。そういう難題をあらゆる分野で解決していかなければいけないんです。

 それでも、できなかったら地球が先に壊れてしまうわけです。地球温暖化の問題が最初に出てきたころは「そんなはずはない」という意見もかなりありましたが、今は学者のほとんどが「今のままではいけない」という見方で一致しているようです。

続きを読む 2/8 企業に任せっきりでは難しい
日経ビジネス2021年3月15日号 80~85ページより目次

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