解剖学の知識を交えて社会現象を解説し、歯に衣(きぬ)着せぬ語り口に多くの人が耳を傾けてきた。誰もが戸惑ったコロナ禍に、どう向き合ったのだろうか。人生とは、仕事とは何か。今こそ根源的に考える時だと説く。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)
PROFILE

養老 孟司[ようろう・たけし]氏
1937年神奈川県鎌倉市生まれ。栄光学園中高を卒業後、東京大学医学部へ。同大名誉教授。専門は解剖学。89年『からだの見方』でサントリー学芸賞を受賞。2003年に出版した『バカの壁』がベストセラーに。『唯脳論』『身体の文学史』『遺言。』など著書多数。

新型コロナウイルスの感染拡大で私たちの生活は一変しました。養老さんはどのようにお過ごしでしたか。

 静かにしていましたよ。猫みたいに。テレビを見る時間は増えたかな。

コロナが社会に与えた影響についてはどう考えていますか。

 両面ありますね。良いほうでは人との距離を見直そうというのがあります。田舎に行く人が増えたでしょう。そういうのは良いほうじゃないかなと思います。

悪いほうというのは。

 皆さんご存じの通りですが、社会や経済の活動が落ち込んでしまうところでしょう。日本の場合、ただでさえデフレで陰気だったのに、どんどん縮小傾向になってしまいますから。まさに負のスパイラルです。コロナが来て、この後、どの程度の不況になるのか。やはり大きな問題でしょう。

世界情勢は不安定になりますね。

 2度目の世界恐慌になりかねない。もうなっているのかな。この状態は。

半分入りつつあるような雰囲気ですよね。米国の大統領選挙はバイデン氏が制しましたが、これで米中対立が緩和するというわけでもなさそうです。そんな世界で日本はどのように立ち回るべきでしょうか。

 今はじっとして隠れているのが一番利口でしょう。力があればともかくとして。僕ならそうします。余計なことは一切しない。鎖国が一番いいですよ。

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