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「32人抜き」で社長に就任して5年が過ぎ、総仕上げの時期にコロナ禍が襲った。移動が制限され自国第一主義が広がっても、パートナーとの信頼関係は揺るがないと説く。新たな価値をどう生み続けるか。次の時代の商社の役割を聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=陶山 勉)
PROFILE

安永竜夫[やすなが・たつお]氏
1960年、愛媛県生まれ。83年に東京大学工学部都市工学科を卒業し、三井物産へ入社。プラント事業畑を主に歩みつつ、93年に世界銀行、2006年には東洋エンジニアリングに出向して幅広い経験を積んだ。10年に経営企画部長、13年に執行役員機械・輸送システム本部長を経て、15年から現職。経団連の副会長も務める。社員は海外事業を切り開く「フロンティアガイド」であり、タフさを求めている。

新型コロナウイルスの感染拡大は業績にどう影響しそうですか。

 あらゆる事業が影響を受けています。石油・ガスなど資源だけでなく、自動車や航空機、船舶などモビリティー分野が特に大きい。人と物の流れが蒸発し、製造業向けの素材分野も影響を受けています。

 毎年、一定程度成長した事業を売却する「資産リサイクル」で500億~600億円ほどの利益を出してきましたが、それも(相場下落で)難しくなりました。利益ベースで2500億円の下押し要因になると考えています。

新型コロナは世界の在り方をも変えようとしています。

 会社人生が始まって以来、こんなに国境を意識したことはありません。以前は境界がなくなる方向で動いていた世界が、パンデミックを受けて各国政府が「守るべきは国民の命であり権利である」となってしまいました。

 米国と中国の覇権争いも休戦かと思いきや、逆に新型コロナ対応やWHO(世界保健機関)を巡り争っています。EU(欧州連合)でも医療体制を守るのは各国であるとして域内の溝が深くなっている。世界全体でデカップリング(分断)の方向感が出ていると感じます。

 当面は各国の自国第一主義が色濃く出て、(医療品など)必要不可欠なものは自国のコントロール下に置くように動くでしょう。短期的にはサプライチェーンの再整理、再編は起きるとみていますが、それが理想的な世界なのかどうか。経済効率とのバランスをどこでとるべきなのか、世界中の経営者が悩んでいると思います。

総合商社の価値の一つである、国際的な舞台で交渉をまとめるといった「タフさ」を発揮するのが難しくなりませんか。

 海外に行って信頼できる相手とネットワークを維持・拡大してきたのが商社です。投資の意思決定が終わった後、計画に落とし込む作業はオンラインでできても、いきなり見ず知らずの人と50億ドルの案件の話はできないですよね。

 トップ同士で会って話をして、担当者たちもそれぞれ何度もやり合ったり飯を食ったりして(信頼を培ってきた)歴史があり、それが、現在の状況下でもきちんと仕事を進められるベースになっている。商社がすぐに別の誰かに置き換わる話ではないと思っています。