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60歳でオンライン生命保険会社を立ち上げて上場に導き、2年前から大学の学長を務める。世界1200都市以上を訪問し、1万冊以上の本を読破した知の巨人。日本人はデータを基に冷静に現状を認識し、働き方を改めろと説く。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=村田 和聡)
PROFILE

出口治明[でぐち・はるあき]氏
1948年、三重県美杉村(現・津市)生まれ。72年、京都大学法学部卒業後、日本生命保険入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年、ネットライフ企画を設立し、代表取締役社長に就任。08年、ライフネット生命保険に社名を変更。12年上場。10年間社長、会長を務める。18年1月から現職。

日経ビジネスは昨年秋からのシリーズ企画「目覚めるニッポン」で、日本がもっと元気になるにはどうすべきかを提言してきました。出口さんは日本の現状をどのように見ていますか。

 データを見れば、とても単純な話です。例えば、世界のGDP(国内総生産)に占める日本のシェアを購買力平価でみたら1991年がピークで9%。今は4%ちょっとですから、半分以下に減っています。スイスのビジネススクール、IMDの国際競争力ランキングでは1位から30位に落ちました。平成元年の89年には、時価総額で世界トップ20社のうち14社を日本企業が占めていましたが、今はゼロ。どう見てもまずいと思いませんか。

日本が置かれている厳しい状況をデータが示していても、危機感を抱かない経営者もいます。

 クールな現状認識ができないことが、日本経済の衰退の原因ですよ。日本の正社員の年間労働時間は平成の30年間、約2000時間でほとんど横ばいです。経済は年1%程度しか成長していません。一方、ドイツやフランスは1300~1400時間で2%くらい成長しています。「まずい」のは誰が見ても明らかです。

 僕は「縦横算数」と言っているのですが、データで現状を認識すべきです。関西学院大学の村田治学長の論文で、労働生産性とその社会の博士号保有者の割合は正比例するというデータがあります。今はアイデア勝負の時代。何も勉強しない人よりも好きなことを徹底的に学んだ博士がたくさんいる社会の方が、アイデアが出やすく生産性も高まるということは感覚的にも分かりますよね。

 しかも日本の労働生産性は国際労働機関(ILO)が調査を始めた70年以降、主要7カ国でずっと最下位です。すごい世界記録を維持していますよね。

経営者の中には、大学院卒の人材は使いにくいという人もいます。

 話にならないですよね。最近もある会議で大企業の役員を務めた立派な人が、博士を採用してみたら、めちゃくちゃになったと言っていました。思い込みで大学院卒は使いにくいという人がいること自体、理解できないですね。

 経営者がそのような認識だから、日本は過去30年、新しい産業を生み出せなかったんです。例えば、いまだに日本経済はモノ作りが一番大切だと思っている人がいるでしょう。