作家、作詞家として活躍する傍ら、人との対談を通じて「知る喜び」を追求してきた。ベストセラー『青春の門』の執筆を23年ぶりに再開し、「昭和」を描くことに情熱を燃やす。人生について考えを深める成熟期をどう迎えたらいいのかを聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
PROFILE

五木寛之[いつき・ひろゆき]氏
1932年福岡県生まれ。教員だった父の勤務によって生後まもなく朝鮮半島に渡り、戦後日本に引き揚げた。早稲田大学文学部ロシア文学科中退。66年に『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年に『蒼ざめた馬を見よ』で第56回直木賞、76年に『青春の門』で吉川英治文学賞を受賞。81年から龍谷大学の聴講生となり仏教史を学ぶ。2010年、長編小説『親鸞』で第64回毎日出版文化賞特別賞を受賞。このほかの主な著書に『風の王国』『作家のおしごと』など。

昭和の若者を描いた『青春の門』の連載を2017年、23年ぶりに再開し、今年9月に『新 青春の門』として刊行しました。連載開始から足掛け50年になります。どういう思いを込めたのでしょう。

 週刊誌で連載を始めた頃は現代小説だったのが、いつの間にか歴史小説になってしまいました。舞台は昭和36、37年ごろ、テレビやマイカーが普及し始めた時代。成長期を前にした日本の青春期を描いています。

 昭和の年表を見てもその時代の実感が湧かないんです。戦後の流行歌を取り上げるテレビ番組を見ても、実際に町中や銭湯で歌っていたのは違う歌だったように感じる。記述された歴史と実感の間に差があるということです。

 例えば明治維新も本を読んで想像しますが、実際に生きていた元武士や庶民の感じた明治は我々のイメージと違っていたかもしれない。自分が生きた時代の実生活を書きたいという思いから昭和にこだわっています。

表題の「青春」とは人間にとってどういう時代を指しているのでしょうか。

 青春という言葉をタイトルに選んだ裏に逆説的な発想があるんです。月並みな表現や手垢のついた形容詞など低く見られていた言葉を駆使して新しいものをつくりたい。「エンターテインメント」という言葉もそうでした。青春という言葉も当時は手垢にまみれ、「青春歌謡」や「青春歌手」など、甘っちょろい、恥ずかしいものだという意識があった。そうしたアイロニー(皮肉)をひっくるめ、反語的なニュアンスで決めたタイトルなので、あまり真正面から青春小説として受け取ってもらうと僕の意図とずれてくるところがあります。

続きを読む 2/4 平成は中年、令和は成熟

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