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徹底したフィールドワークから人類の発展や文明の盛衰などを分析してきた「知の巨人」。新著では「国家の危機」をテーマに日本を含めた7カ国について取り上げた。二極化や自国第一主義に警鐘を鳴らし、日本の役割に期待する。

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(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=吉成 大輔)
PROFILE

ジャレド・ダイアモンド[Jared Diamond]氏
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)地理学教授。1937年、米ボストン生まれ。米ハーバード大学で生物学、英ケンブリッジ大学で生理学を修めた後、進化生物学、鳥類学、人類生態学なども駆使した学際的な研究を続ける。世界的大ベストセラーとなった『銃・病原菌・鉄』(草思社)でピュリツァー賞を受賞。『人間はどこまでチンパンジーか?』(新曜社)、『文明崩壊』(草思社)、『昨日までの世界』(日本経済新聞出版社)など著書多数。

10月に日本版が発売された著書『危機と人類』の原題は『UPHEAVAL:Turning Points for Nations in Crisis(激動:危機における国家の転換点)』です。なぜ、国家の危機をテーマにしたのですか。

ジャレド・ダイアモンド氏の新著『危機と人類』(写真=スタジオキャスパー)

 「危機」とは、個人でも国家でも、これまでのやり方はもはや機能しないと気付いて、「選択的変化」を起こさせるような状況を指します。70年余りの人生で私が住んだ米国、ドイツ、フィンランド、チリ、インドネシア、オーストラリア、そして住んだことはありませんが親戚のいる日本は、いずれも危機を経験しています。それらを研究すれば、現在の危機への対処法を示せるのではと考えました。それが、この本を書いた動機の一つです。

 もう一つの動機は、妻のマリーが心理療法士であることです。彼女は危機療法の仕事をしており、死や離婚、病といった突然の危機に見舞われた患者を手伝っています。どんな患者が危機にうまく対処できるのかを妻と議論していた時、個人的な危機の帰結を左右する要因は国家的危機の理解にも役立つのではないかとひらめきました。

国家は個人の集合だから役立つということですか。

 その側面もあります。国家のリーダーは結局のところ個人ですから。スポーツチームも都市も国家も企業も、あらゆるレベルの組織が似たような危機に直面し、似たような手法で対処しています。離婚の危機に直面している人は、幸せな結婚生活をしている人に学ぼうとします。国家も他の国をモデルにして危機を乗り越えようとします。明治の日本がそうでした。議会制民主主義を導入し、工業化も果たすために、他の国をモデルにしています。

 個人か国家かを問わず、危機を乗り切る最初のステップは、危機の存在を認識することです。日本は1853年のペリー来航を機に、鎖国はもはや機能しないと認識し、選択的変化を起こしました。明治の日本は、近現代で危機の克服に成功した最も良い事例でしょう。

今、日本の社会は人口減少などにより大きな転換点に立たされていますが、危機感が十分に共有されているとは言えません。なぜだと思いますか。

 明確な答えはありませんが、いくつかの可能性は指摘できます。ペリー来航のような突然のショックを伴わず、徐々に進行している危機であること。他国に侵略されるような状況ではないことなどです。それゆえ、従来の価値観を大きく変えなければならないという危機感が持てないのかもしれません。