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低成長時代において、この10年で売上高を約1兆円伸ばした東レを2010年から率いる。長期的視点で炭素繊維などの新規事業や海外事業を育て、業績拡大をけん引してきた。株主第一主義に背を向け、地に足の付いた日本的経営の良さを説く。

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(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=陶山 勉)
PROFILE

日覺 昭廣[にっかく・あきひろ]氏
1949年1月兵庫県生まれ。70歳。71年東京大学工学部卒業、73年東京大学大学院工学系研究科・産業機械工学科修士課程修了後、東レに入社。米国やフランスで現地新工場立ち上げを経験。その後、工務第2部長、エンジニアリング部門長、水処理事業本部長などを経て2007年に副社長。10年から現職。炭素繊維などの新事業を育ててきた。

東レといえば、長い時間をかけて技術を磨き、炭素繊維などの新製品を生み出してきたイメージがあります。短期的な成果を求める傾向にある投資家とどう折り合いをつけているのでしょうか。

 例えばポリエステルフィルムのようなフィルム類は日本企業による独占に近い状況です。炭素繊維も欧米企業を含め何社も参入しましたが、みんな撤退して日本の企業だけが残りました。

 欧米の企業では2期、3期と赤字だったらそれ以上は事業を続けられない。経営者がクビになってしまいますから。米デュポンのチャールズ・ホリデー元会長も「日本の企業がうらやましい」と言っていました。

確かにホリデーさんは生え抜きで、日本的な経営の考え方に近い方でした。

 かつての欧米の一流企業、特に米国企業は経営の考え方は日本と近かったはずです。ただ資本主義が金融資本主義に変質し、アクティビストに権力が移ったことでおかしくなった。最近では「もうやっていられない」と上場廃止にする方向に動いています。

 投資家と投機家、株主資本主義と金融資本主義は明確に分けないといけない。投機家は株価ばかりを見て、その会社の事業やビジョンにはほとんど関心がない。本当の株主は、会社の事業内容を理解して、「東レの炭素繊維に懸けよう」と共感してくれる。だから、投機家の言うことに惑わされること自体がおかしいわけです。

日経ビジネス2019年10月28日号 82~85ページより目次